この記事で解決できるお悩み
・土壌診断書をどう活かしたらいいかわからない<コスト削減&収益UPに繋げる具体的な方法)>
・土質によって生育と収量がぜんぜん違う<北海道の主要土壌タイプ別の施肥設計ポイント)>
・土壌診断書の分析項目の読み解き方がわからない<pHやCECなどの「経営的な意味」>
・どんな施肥をすべきかわからない<主要5大作物(水稲・大豆・秋小麦・甜菜・馬鈴薯)の施肥シナリオ>
北海道の農業では、収量・品質を安定させるうえで「土壌診断」は必須ツールです。
しかし、多くの現場では“診断書を見ても何をすればいいのか分からない”という課題があります。
本記事では、採取 → 分析 → 解釈 → 処方の流れと、
診断結果を現場の改善に結びつけるための実践的な方法を解説します。

・肥料価格の高騰は深刻だ。コスト削減したいが、肥料を減らせば収量や品質が落ちてしまわないか心配…。
・土壌診断書をどう施肥設計に落とし込めば良いのか、正直よく分からない。
・結局、例年通りの施肥に落ち着いてしまう。



「土壌医」で「農業経営アドバイザー」、10年で300軒以上の農家さんを見てきた私が解説します!
土壌診断書の項目について、
・1つひとつの数値が何を意味し、
・自社の経営にどう影響するのか
を科学的に読み解き、具体的なアクションプランにする。すなわち「処方箋」としての施肥設計に落とし込んでこそ、土壌分析は真価を発揮します。
この記事は、単なる土壌分析項目の解説書ではありません。土壌分析を単なる「健康診断」から「経営改善を加速させる戦略的ツール」へと昇華させるための、具体的かつ実践的な羅針盤としていきましょう。
なぜ、土壌分析に基づく施肥設計が北海道農業の「利益」を最大化するのか?
経験と勘は、熟練した農業経営者にとってかけがえのない財産です。しかし、現代の農業を取り巻く環境は、それだけでは乗り越えられないほど複雑化しています。
肥料価格高騰と経営圧迫の現実
ご存知の通り、化学肥料の国際価格は高止まりを続けており、生産コストを直撃しています。売上からコストを差し引いた「利益」を最大化するためには、肥料という最大の変動費をいかにコントロールするかが、経営の死活問題となっています。


土壌分析は、圃場にすでにある養分(=資産)を正確に把握し、過不足のない最適な投資(=施肥)を行うための、最も信頼できるデータです。



畑作では経営費の13%が肥料費です。
経験と勘の限界:大規模圃場における地力ムラの可視化
40ha、50haと経営規模が拡大するほど、一枚の圃場内でも地力は均一ではありません。高低差、旧河道、過去の土層改良の有無など、様々な要因で「よく獲れる場所」と「そうでない場所」が生まれます。
経験則では圃場全体を平均的にしか見られませんが、土壌診断を適切に実施することで地力のムラを「可視化」できます。
圃場全体に一律で施肥するのではなく、地力の低い場所には厚く、高い場所には薄く施肥する「可変施肥」や「セクションコントロール」が可能となり、肥料利用効率を劇的に向上させることができます。



ただ「肥料費を削減しよう」ではなく、「適切に使用して収量と品質を最大化させよう」、そのために土壌診断を活用しようというのが私の考えです。
土壌分析から施肥設計まで|4つの実践ステップ全体マップ
本章では土壌診断の全体プロセスを解説します。
土壌診断は“検査して結果を眺める”だけでは意味がありません。本来の目的は、「データをもとに土を変えること」にあります。そのためには、採取・分析・解釈・処方の4つの工程を、ひとつの流れとして設計することが不可欠です。



土壌診断を実施したことがない方は全体像を押さえましょう!
正しい土壌サンプルの採取方法
診断の正確さは、採取の段階でほぼ決まるといっても過言ではありません。
誤った採取方法は、いくら正確な分析をしても「意味のない数値」を生み出します。
● 採取の目的
- 圃場全体を代表する「平均的な土」を得ること
- 作物の根が活動する深さ(おおむね0〜15cm)の層を評価すること
スポット的に生育不良の場所があるなら、ピンポイントで局所的に採取するのもOK。
● 採取の基本
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 採取時期 | 作付け前、施肥や堆肥散布の前。あるいは収穫後。 |
| 採取点数 | 1圃場あたり5カ所採取、混ぜて1検体とする。 |
| 深さ | 10〜15cm(作物根域) |
| 道具 | 採土管またはスコップ(ステンレス推奨) |
| 注意 | 圃場の端・畦際・堆肥塊の近くは避ける |
上記は教科書的な方法であり、広い圃場の平均値を抽出するという目的になっています。
一方で、定期的に同じ1箇所の土を採取して定点観測するというのも有効だと筆者は考えます。
● よくある失敗例
- 表層の乾いた部分だけ採る → 実際の根域を反映しない
- 1点のみ採取 → 圃場のバラツキを拾えない
- 雨直後に採取 → EC値が低く出る(希釈)
- 施肥直後に採取 → 濃度が異常に高く出る
✅ 採取前チェックリスト
- サンプル数は5点以上ある
- 各サンプルを混ぜて均一化している
- 乾燥土・濡れ土を避けた
- ラベル(圃場名・日付)を記入した
- 採取後は陰干しで乾燥させた
乾燥は“天日”ではなく“陰干し”。直射日光で乾かすとアンモニアや硝酸が揮発して、窒素系データが正確に出ません。
分析機関の選び方と必須項目
採取したサンプルは、必ず分析品質が保証された機関に依頼します。
北海道内ではJA系・道総研系・民間ラボの3系統があり、それぞれに特徴があります。
● 北海道の代表的分析機関
| 区分 | 機関名(例) | 特徴 | 納期目安 |
|---|---|---|---|
| 公的機関 | 北海道立総合研究機構(道総研) | 標準値に忠実。研究・報告用途に最適。 | 2週間~4週間 |
| JA系 | 各地のJA営農センター | 地域密着・実用指標重視。 | 2週間~4週間 |
| 民間企業 | ホームセンター、肥料会社。 | 高精度・短納期・オンライン対応あり。 | 2週間~4週間 |
たとえば、北海道立総合研究機構の中央農業試験場ではこのような案内がされています。
● 基本分析項目(最低限)
| 項目 | 意味 | 活用目的 |
|---|---|---|
| pH(H₂O) | 酸性/アルカリ性の指標 | 石灰・苦土資材の選定 |
| EC(電気伝導度) | 塩類濃度 | 濃度障害・排水性評価 |
| CEC(陽イオン交換容量) | 保肥力 | 土質・有機物量の把握 |
| 塩基類(Ca・Mg・K・Na) | 栄養バランス | 石灰・苦土・カリ施肥判断 |
| 有効リン酸 | 初期生育・根張り | リン資材の必要性評価 |
実務アドバイス:
迷ったら「pH+EC+CEC+塩基類+リン酸」の5項目で十分。
これだけで物理性・化学性の骨格はほぼ判断できます。
分析結果の解釈(読み方)
分析値は、読めなければただの数字です。
重要なのは、「何が足りず、何が多いのか」ではなく、「なぜそうなったのか」を読み解くことです。
● 解釈の順番(判断フロー)
- 物理性:CECとECから「保肥力と濃度」の関係を見る
- 化学性:Ca・Mg・K比で「塩基バランス」を見る
- 生物性:有機物量や色・匂い・団粒構造で判断
● よくあるパターン診断
| パターン | 主な症状 | 改善方向 |
|---|---|---|
| pH高×Mg低 | Mg欠乏による葉色ムラ | 苦土石灰・硫マグ |
| EC高×CEC低 | 濃度障害リスク | 排水+腐植強化 |
| CEC高×Ca過剰 | 硬化・通気不良 | 有機物導入 |
プロの視点:
数字を“見比べる”のではなく、“関係性で読む”こと。
どの項目が他を支配しているかを掴めば、対症療法から原因療法へ変わります。
施肥設計(処方)への落とし込み
ここが、診断を経営に活かす決定的なステップです。
処方とは、単なる「施肥設計」ではなく、「根拠に基づいた改善プラン」を意味します。
● 処方設計の基本方針
- 欠乏→過剰→比率の順に優先度を決める
- 物理性→生物性→化学性の順で改善する
- 改善は“1回で直さず、3年かけて整える”のが理想
● 具体例:CEC15、Ca50%、Mg10%のケース
- Ca飽和度が高すぎ → 苦土石灰でMg補正
- CEC低い → 腐植資材導入(バーク堆肥・微生物資材)
- 追肥時はMg比を優先、K施用を抑制
改善とは“足し算”ではなく“引き算”でもある。
不要な要素を削ることで、植物が吸いやすい土壌バランスが生まれます。
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土壌診断の全体プロセス|まとめ
| 工程 | 目的 | 成功のポイント |
|---|---|---|
| 採取 | 圃場を代表する試料を取る | 「深さ・数・タイミング」 |
| 分析 | 数値で土の性格を把握 | 分析機関選定と項目精査 |
| 解釈 | 数字の因果関係を読む | 比率・関連性で判断 |
| 処方 | 改善プランを設計 | 欠乏→過剰→比率の順で優先度付け |



この流れを守ることで、診断書が“紙切れ”ではなく“経営ツール”に変わります。
【土壌タイプ別】黒ボク・泥炭土での土壌分析の読み方と施肥設計のコツ
土壌分析の結果を正しく解釈するためには、まず自分の圃場がどの土壌タイプに属するのかを理解することが第一歩です。
北海道に分布する代表的な土壌の物理性・化学性の特徴と、土壌分析で特に注目すべき項目を以下の表にまとめます。
| 土壌タイプ | 主な特徴と分布 | 土壌分析での着眼点と対策の方向性 |
|---|---|---|
黒ボク土![]() ![]() | 火山灰が由来。腐植に富み黒色で物理性は良好だが、リン酸を強力に吸着(固定)する性質がある 。十勝、網走、胆振、上川管内などに広く分布 。 | 有効態リン酸(トルオーグ法):リン酸固定が強いため、一般的な土壌より高い基準値が求められる。pHが低い場合は、石灰施用による矯正がリン酸の有効化にも繋がる。 |
泥炭土![]() ![]() | 湿地で植物が分解されずに堆積した土壌。有機物を極めて多く含み、CEC(保肥力)が高い 。石狩、空知、上川管内に多い 。日本の泥炭土の約6割が北海道に存在する 。 | CECが高い分、塩基(Ca, Mg, K)が不足・流亡しやすく、バランスが崩れやすい。Mg/K比などを注視し、積極的な塩基補給が必要。また、地力窒素の発現量が多いため窒素施肥のコントロールが重要。 |
褐色森林土![]() ![]() | 山地の傾斜地などに分布する黄褐色の土壌 。排水性は一般に良好だが、養分は乏しい傾向にある。網走、上川管内に多く分布する 。 | 特定の成分が極端に過不足することは少ないが、全体的に養分が少ない傾向がある。堆肥などの有機物施用で腐植を増やし、CECと緩衝能を高めることが地力向上の基本となる。 |
低地土![]() ![]() | 河川の流域に分布する土壌の総称で、沖積土とも呼ばれる 。北海道の農耕地で黒ボク土に次いで面積が広い 。性質は上流から下流まで様々で、砂質から粘土質まで幅広い。 | 排水の良し悪しが最も重要。特に粘性が強い灰色低地土 (重粘土)は、物理性改善(有機物施用、心土破砕)が必須。土壌分析と合わせ、土性を把握することが第一歩となる。 |
グライ土![]() ![]() | 低地土の中でも特に排水が悪い場所で、地下水位が高い土壌 。酸素不足のため、土層に青灰色の「グライ層」が見られる 。水田に多く、空知、上川管内に広く分布する 。 | 水稲作には適するが、畑作物への転換時には根腐れのリスクが非常に高い。暗渠排水や心土破砕といった基盤整備が不可欠。マンガンなどの微量要素欠乏にも注意。 |
自らの圃場の成り立ちに思いを馳せることが、土壌診断データ読解の第一歩となります。
あなたの畑の土の性質、論理的に説明できますか?
道総研サイト内にある北海道の土の素顔-北海道各地の代表的土壌の断面写真集-は参考になります。
北海道の地域別土壌の傾向と注意点
エリアによって土壌はまったく異なる性質を持っています。一般的にこちらのような傾向があります。
| 地域 | 主な土壌タイプ | 特徴 | 注意点/改善方向 |
|---|---|---|---|
| 道北(上川・宗谷) | グライ・重粘土 | 高pH・排水不良 | 暗渠・苦土補給 |
| 十勝 | 黒ボク・腐植質 | Ca欠乏・K不足 | ケイ酸+石灰局所施用 |
| オホーツク | 腐植質砂壌土 | Mg/K比の乱れ | 硫マグ・有機物追加 |
| 空知・南部 | 中pH・高EC | 濃度障害 | 冬期還元・有機資材投入 |
施肥設計の基本手順|土壌分析データを「具体的な肥料量」に落とし込む方法
土壌診断の目的は、数字を読むことではなく「現場を変えること」です。
この章では、診断値から“何を・どの順で”改善すべきかを、土壌医としての視点で体系的に整理します。
① 現状の特定:データを「原因」として捉える
分析結果を受け取ったら、まず「どの層の問題か」を切り分けます。
すべてを一度に直そうとすると、コストも手間も増え、効果検証ができません。
● 判断の3ステップ
- 物理性の確認(排水・団粒・硬化)
→ 通気性・排水性が悪ければ、どんな資材も効かない。 - 化学性の確認(pH・CEC・塩基バランス)
→ 数値の歪みが吸収阻害を起こしていないか。 - 生物性の確認(有機物量・根の張り・ミミズ・匂い)
→ 腐植が足りないと、微生物群が安定しない。
pHやCECの「数字の悪さ」よりも、物理性の欠陥(排水・透水)を先に整えるほうが、長期的に土壌は安定します。
② 物理性・化学性・生物性の優先順位
土壌改良の鉄則は、“物理 → 化学 → 生物”の順で整えること。
数字を小手先で調整しても、根の生息環境が悪ければ、改善は長続きしません。
● 改善の優先フロー
| 段階 | 改善対象 | 代表的な手法・資材 | 効果 |
|---|---|---|---|
| Step1 | 物理性(通気・排水) | 砕土・心土破砕・暗渠・けい酸資材 | 根域の確保・還元防止 |
| Step2 | 化学性(pH・CEC・塩基バランス) | 苦土石灰・炭カル・腐植酸肥料 | 吸収環境の安定 |
| Step3 | 生物性(腐植・微生物) | 堆肥・有機質肥料・微生物資材 | 根圏の再生・団粒促進 |
多くの現場では、化学性ばかりを整えようとして「排水」や「有機物補給」が後回しになっています。
しかし、物理性を放置した土壌改良は“一過性の補修”に終わることを忘れてはいけません。
③ 処方設計:数値を「施肥設計」と「改良計画」に落とし込む
ここからが“診断を経営に活かす”段階です。
データを処方に落とす際は、「どの要素をどの期間で整えるか」を数値で設計します。
● 代表的な改善パターン(数値ベースの処方例)
| 状況 | 問題点 | 処方方向 | 実施例 |
|---|---|---|---|
| pH 6.8/Ca過剰/Mg低 | Mg欠乏による吸収阻害 | 苦土石灰 or 硫酸マグネシウムでMg補正 | MgO換算10〜15kg/10a施用 |
| CEC 13以下/腐植<2% | 保肥力不足 | 有機物・腐植酸資材でCEC上昇 | バーク堆肥2t/10a+腐植酸0.5L/10a |
| EC 0.35以上/排水悪 | 濃度障害 | 暗渠・けい酸資材で排水改善 | 暗渠更新+ケイカル施用100kg/10a |
| pH 5.5以下 | 酸性過多 | 炭カル・苦土石灰施用 | pH目標6.2、炭カル80kg/10a目安 |
・改良は“資材の種類”ではなく“数値の目的”で決める。
・処方は「どの数値を、どの時期に、どの方向へ」変えるかで設計する。
・「1回で直す」ではなく、「3年で育てる」イメージを持つ
④ 実施と再診:結果を“検証”して初めて改善になる
処方を行ったら、1~4年後に再分析を行い、変化を数値で確認します。
改善とは「実施して終わり」ではなく、「検証して次に活かす」までを含みます。
● 再診のポイント
- 同じ圃場・同じ深さ・同じ時期で再採取する
- 数値がどう動いたかを比較し、因果を考察する
- 数字が良くても生育が悪ければ、物理・生物性の見直しを行う



秋小麦収穫後に診断したのなら、また4年後の秋小麦収穫後、のように同じ条件にするのも1つのポイントです。
土壌改良の本質は「改善速度を上げること」ではなく、「改善の方向を間違えないこと」。
小さな改善を確実に積み上げることが、5年後の収量差を決定づけます。
⑤ 「引き算」の施肥設計とは?(過剰成分の調整)
多くの農家が“資材を足す”方向で考えがちですが、
真の改善とは「過剰要素を引き算してバランスを整えること」です。
- Ca過剰 → 苦土・ケイ酸で中和
- K過剰 → 施肥量調整でリセット
- EC高 → 排水・堆肥見直し
目的は“肥料の効かせ方”ではなく、“根の生きやすさ”を作ること。
改良は「植物目線」で判断する。
⑥ まとめ:分析値を“行動の指針”に変える
| ステップ | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | 現状の特定 | データを原因分析に使う |
| 2 | 優先順位設定 | 物理 → 化学 → 生物の順で整える |
| 3 | 処方設計 | 数値から資材と量を決める |
| 4 | 実施と再診 | 検証で“改善の質”を高める |
| 5 | 引き算の思考 | 過剰を抑えてバランスを保つ |
土壌改良とは、「データを読んで終わる」ものではなく、「改善を継続する文化を作る」ことです。
診断→改善→検証→再設計のサイクルを回すことで、毎年の不確実性を減らし、経営の安定性を高める。
項目別・土壌分析表の読み方と対策|pH・EC・CECをどう施肥に活かすか?
ここからは、各項目の説明と「経営的な意味」を解説していきます。お手元に、ホクレンや地域のJAから届いた土壌診断書をご用意ください。単なる理想値との比較ではなく、その数値がなぜ重要で、あなたの農場の収益性にどう直結するのかを読み解いていきましょう。


pH(酸度)と石灰施用量の計算方法|コストを無駄にしない最適資材と投入量の決定法
pHは土壌の酸性度を示す最も基本的な指標です。北海道の畑作物の多くは、pH(H₂O)が6.0〜6.5の弱酸性で最も生育が良くなります。
経営的な意味:低pHは作物だけでなく経営にも最悪
pHが適正範囲から外れると、養分の吸収効率が著しく低下します。例えば、pHが5.5を下回る酸性土壌では、せっかく投入したリン酸やモリブデンが効きにくくなり、アルミニウムなどの有害物質が溶け出して根の伸長を阻害します。これは、高価な肥料を捨てているのと同じ状態です。



肥料よりもケチってはいけないのが石灰を筆頭とする土壌改良材です。
プロの視点:緩衝能を知らないとpH矯正はできない
注目すべきはpHの数値だけではありません。「緩衝能」という概念が重要です。これは、酸性やアルカリ性を中和しようとする土壌の抵抗力であり、CECや腐植含量と相関します。緩衝能が高い土壌(泥炭土や腐植に富む黒ボク土)は、pHを1上げるのに多くの石灰資材を必要とします。診断書に「石灰飽和度」や「交換酸度」といった項目があれば、そこから必要な石灰量をより正確に算出できます。


上記のアレニウス表(土壌の種類と現在のpHから、目標pHへの矯正に必要な石灰量を知るための早見表)を見れば石灰の必要量がわかります。この表は「pH6.5に矯正するときの炭カルの所要量」を示しています。



前章で解説した、ご自身の圃場の土壌タイプを把握する重要性がわかると思います!
本当はきちんと把握するべきですが、「よくわからない」「面倒くさい」という方はこちらでざっくり把握しましょう。


pHを上げるのは非常に大変です。いわゆる「いい土」=緩衝能が高い土壌となるので、大量の石灰が必要になります。毎年、継続的に施用し続けることが重要なのはこういう理由です。
アクション:pH6.0~6.5をねらい、維持する。
pHと作物を考慮し、炭酸カルシウム(炭カル)、苦土石灰、など、特性の異なる石灰資材から最適なものを選択します。


基本的には炭カル、生石灰、貝殻石灰を使い分けるのがいいでしょう。


馬鈴薯そうか病の多発が想定されるときは、pH5.5未満が理想的と言われます。ただ、輪作の便宜上、近年はpH6.0以上で栽培されるケースがかなり多いです。
pHの重要性はこちらの記事でもっと詳しく解説しています。


CEC(保肥力)に応じた分施・減肥の判断基準|その土壌は肥料が効く?流亡しやすい?
CECは「陽イオン(Ca²⁺, Mg²⁺, K⁺, NH₄⁺など)を土壌が保持できる容量」を示し、よく「土の胃袋の大きさ」に例えられます。
平たく言えば、乾土100グラム当りに保持することのできるカルシウム、マグネシウム、カリウムの割合の合計です。その単位はmeq/100g(ミリグラム当量)で示されます。
CECの測定には多くの時間と手間がかかるので、分析項目にない場合も少なくありません。しかし、胃袋の大きさは施肥量を決定するために必須と言えるので、有料オプションがあれば依頼しましょう
経営的な意味:CECは「安定生産できる基盤かどうか」を数値化したもの。
CECが高い土壌(泥炭土、腐植質の黒ボク土など)は、肥料成分を多く蓄えられるため、肥料が流亡しにくく、安定した養分供給が可能です。
一方、CECが低い土壌(砂質土など)は、一度に多くの肥料を与えても保持できず、雨で流されてしまいます。


プロの視点: CECの値に応じて、施肥戦略を変える。
CECは土壌に含まれる粘土鉱物の種類、量に支配されるため、その改良は容易ではありません。短期的には施肥設計で対応することがカギとなります。
- 高CEC土壌: 比較的多めの基肥にも耐えられるが、塩基バランスが崩れやすい点に注意が必要。
- 低CEC土壌: 肥料の「分施(分割して施肥すること)」が極めて重要。特に窒素やカリは、生育段階に合わせて複数回に分けて施用することで、利用効率を最大化し、無駄な流亡を削減できます。


アクション:CECを把握して、戦略を立てる。
自分の圃場のCECを把握し、それが高いのか低いのかを認識した上で、施肥回数や一度の施肥量を検討します。
また、堆肥などの有機物施用はCECを高めるための重要な土壌改良です。初歩的で地味かもしれませんが大事です。
CECに合わせた施肥戦略を実施しつつ、長期的には堆肥や有機物を毎年1~2t/10a入れて改善を図りましょう。堆肥成分の一部は腐植として永くCECを形成します。



堆肥を入れることが大事とはわかっているが、変化を実感できるまで何年かかることやら…。



仰るとおり、腐植の生成には長い月日が必要です。でも今すぐ結果も欲しい!という気持ちもわかります。だからこそ長期と短期の両輪で戦略立て同時に走らせましょう。
有効態リン酸と減肥設計|分析法(トルオーグ法/ブレイ第2法)の違いと解釈
有効態リン酸は、作物が利用できるリン酸の量を示します。ここでプロとして注意すべきは、その分析方法です。北海道では主に「トルオーグ法」と「ブレイ第2法」が用いられます。
経営的な意味:リン酸を減らせば肥料費は減らせる
リン酸は初期生育や根張りを左右する重要な養分ですが、過剰に蓄積しやすい性質も持ちます。





土壌に十分な蓄積があるにも関わらず、慣習的にリン酸肥料を投入し続けることは、コストの無駄遣いだけでなく、環境負荷にも繋がります。
プロの視点:科学的に「確固たる減らせる理由」が存在する。
リン酸の分析方法には2種類あります。
- トルオーグ法: 弱酸性の抽出液を用いるため、根から根酸を分泌してリン酸を溶かして吸収する能力が高い作物(ソバ、小麦、菜種など)が利用できるリン酸量を反映しやすいとされます。
- ブレイ第2法: トルオーグ法よりも強い酸性の抽出液を用いるため、より溶け出しにくいリン酸まで測定します。
お手元の分析票で、どちらの分析法が使われているか必ず確認してください。一般的に、黒ボク土ではリン酸固定の強さからトルオーグ法の数値が重視される傾向にあります。同じ「10mg/100g」という値でも、分析法が違えばその解釈は変わってくるのです。
トルオーグ法で測定されたリン酸は「吸収可能=可給態」と認識しましょう。つまり、減肥可能です。



土壌診断書のリン酸値って「吸えないリン酸」も含まれるのかと思っていた。



その先入観をお持ちの農家さんが非常に多いです。でも、きちんと診断書を理解すればリン酸は減らせます。
アクション:減肥が心配なときの「奥の手」がコレ。
分析法を確認した上で施肥基準と照らし合わせます。基準値を大幅に超えている場合は、数年間リン酸肥料を無施用または減肥する積極的なコスト削減策を検討できます。
ただし、心理的にどうしても抵抗がある場合もありますよね。そういう場合は全層施肥→局所施肥へ切り替えましょう。





リン酸減肥のリスクは主に初期成育です。万が一、減肥して後悔するとしたら、やはり初期成育不良です。作物の株元にリン酸を局所施肥することでリスクは限りなく排除できます。
リン酸についてはこちらの記事でもっと詳しく解説しています。




塩基バランス(飽和度)と拮抗作用|Mg/K比、(Ca+Mg)/K比の重要性
土壌分析において、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)は、それぞれの量だけでなく「バランス」が極めて重要です。CECに対する各塩基の割合を「塩基飽和度(%)」と呼び、これらの比率から拮抗作用を読み解きます。
特に馬鈴薯やビートなどの作物は、このバランスに敏感に反応します。逆に、水稲で塩基バランスを意識する方はかなりハイレベルな生産者と言えます。


| 指標名 | 計算式 | 適正範囲(当量比) | 経営上の意味・解説 |
|---|---|---|---|
| Ca/Mg比 | Ca当量 / Mg当量 | 2~5 | カルシウムとマグネシウムのバランス。この比率が低いとCa欠乏や土壌硬化、高いとMg欠乏による光合成能力低下のリスクがある。石灰資材の選定に直結する重要指標。 |
| Mg/K比 | Mg当量 / K当量 | 2~4 | カリウムとマグネシウムのバランス。特に馬鈴薯などでは、この比率が低い(カリ過剰)とMg欠乏による品質・収量低下を招きやすい。 |
| (Ca+Mg)/K比 | (Ca当量+Mg当量) / K当量 | 10以上 | 1価陽イオン(K)と2価陽イオン(Ca, Mg)のバランス。この値が低いと土壌構造の悪化や作物の生育障害に繋がる恐れがある。 |
特に馬鈴薯を作付けする場合、Mg/K比が低いとマグネシウム欠乏が懸念されます。基肥で硫酸マグネシウム(硫マグ)を施用したり、葉面散布剤を準備したりするなどの先手管理が可能になります。
地力窒素とC/N比|土が持つ「天然の窒素」を活かし、施肥量を削減する
地力窒素(可給態窒素)は、作付け期間中に土壌有機物が分解されて供給される窒素の量を示します。
経営的な意味: 土壌が無料で供給してくれる窒素肥料
この数値を正確に把握することで、購入する化学肥料としての窒素をどれだけ削減できるか、具体的な計算が可能になります。特に泥炭土や腐植の多い土壌では、この供給量が10kg/10aを超えることも珍しくなく、窒素施肥設計の根幹となります。



土壌診断書の項目では「熱水抽出性窒素」などがそれに当たります。
プロの視点: C/N比(炭素率)も合わせて確認する
C/N比が高い未熟な有機物(麦稈など)を大量にすき込むと、土壌微生物がそれを分解するために土壌中の窒素を消費するため、一時的に作物が利用できる窒素が減少する「窒素飢餓」が起こる可能性があります。
麦稈や稲藁を鋤き込むときはかならず窒素を供給しましょう。石灰窒素や各種微生物資材も有効です。
アクション: 「目標収量に必要な窒素量」から「地力窒素供給量」を差し引く
これにより、勘に頼らない合理的な窒素施肥が可能となり、コスト削減と環境負荷低減を両立できます。



北国では雪が降るので、根雪前の土壌診断で測定した窒素は流れてしまうかもしれません。秋小麦の基肥などで有効な手法です。
微量要素(ホウ素、マンガン等)- ビート(甜菜)や馬鈴薯の品質向上への影響
ホウ素(B)やマンガン(Mn)などの微量要素は、少量で作用しますが、欠乏すると品質や収量に致命的な影響を与えます。
経営的な意味: 収穫物の等級や歩留まりに直結
- ビートでは、ホウ素が欠乏すると根の芯が黒く腐る「心腐病」が発生し、商品価値がなくなります。
- 馬鈴薯では、マンガン欠乏が高温・乾燥条件下で発生しやすくなります。
プロの視点:pH管理との連動と「隠れ欠乏」を見抜く
微量要素の欠乏症を診断する際、単に分析値の欠乏だけを見ているわけではありません。より重要なのは、他の土壌要因との関係性から、将来起こりうるリスクを予測することです。
- pHを上げると効きにくくなる微量要素:
最も注意すべきは、pHとの関係です。石灰を施用して土壌のpHを適正値に矯正すると、マンガン、ホウ素、鉄、亜鉛といった多くの微量要素は水に溶けにくくなり、作物が吸収しづらくなります。 つまり、「pHを改善したら、今度は微量要素欠乏が出た」という事態は、特に北海道の畑作では頻繁に起こりうるのです。



良かれと思って行った土壌改良が、新たな問題を引き起こす典型的な例です。


上図では、幅が広いほど養分の溶出が多いことを示しています。
ほとんどの微量要素はpH7.0付近から欠乏リスクが高まってきます。
- 「隠れ欠乏(Hidden Hunger)」の存在:
目に見える欠乏症状(ビートの心腐れなど)は、いわば氷山の一角です。症状として現れる前の段階、すなわち「隠れ欠乏」の状態でも、作物の体内では代謝が滞り、気づかぬうちに収量や品質はじわじわと低下しています。この隠れ欠乏を疑い、先手を打つことが経営上の損失を防ぎます。
- 緊急対策としての「葉面散布」:
微量要素は、根からの吸収が間に合わない場合や、生育中期に急な欠乏症状が現れた場合に、葉面散布が極めて有効な対策となります。微量要素は作物が必要とする量がごく僅かであるため、葉から直接吸収させることで、迅速かつ効率的に効果を発揮します。これは、土壌の状態に左右されず直接栄養を届ける重要な技術です。



液肥なんか使わなくても、取れる年は取れるし、取れない年は取れないと思っていた。



おっしゃるとおりです。ただし、減収レベルを最小限に留める効果は期待できます。特に、異常気象続きの近年は葉面散布の重要性が劇的に増しています!
アクション:微量要素資材(FTE)を準備する
微量要素の欠乏が予測される、または「隠れ欠乏」が疑われる場合、以下のような段階的かつ戦略的なアクションを検討します。
- 予防的施用: 次作で石灰施用によるpH矯正を計画している圃場では、ホウ素やマンガンの欠乏が誘発されるリスクをあらかじめ想定し、FTE(複合微量要素肥料)や微量要素配合の肥料などを予防的に基肥で施用します。
- 資材の選択: 特にビートを作付けする場合、ホウ素が保証された専用肥料を選択することは、リスク管理の観点から非常に合理的な投資判断です。
- 緊急対策の準備: 生育期間中に天候不順(低温、日照不足、乾燥など)が続くと、微量要素の吸収が滞りやすくなります。いつでも対応できるよう、マンガンやホウ素などの微量要素葉面散布剤を事前に準備しておくことも、安定生産のための重要なリスク管理と言えるでしょう。
北海道5大作物の施肥設計・成功事例(小麦・大豆・ビート・馬鈴薯・水稲)
このセクションでは、土壌分析の結果を、具体的な作物の施肥計画という「アクション」に落とし込むための思考プロセスを解説します。



複雑に見える施肥設計も、ステップを踏んで考えれば、必ず実践できます。
STEP 1: まずは施肥設計の「全体像」を掴む
個別の作物を考える前に、土壌分析から施肥計画の立案、そして次年度へのフィードバックという一連の流れを把握しましょう。
以下のフローチャートは、あなたの経営判断の軸となる「思考の地図」だと考えてください。
毎年でなくてもいいです。全圃場でなくてもいいです。気になる圃場を確実に取ってください。
pH、CEC、リン酸、塩基飽和度と塩基バランスなど。
意外と明確でない人が多いです。圃場ごとの目標を立てましょう。
難しければいちばんシンプルな石灰量からやってみましょう。目標pHと現pHから必要量を算出します。
例)水稲ならケイ酸、ビートならホウ素、馬鈴薯なら石灰と苦土。
石灰なら炭カルか生石灰か、基肥なら窒素何%の肥料を選定するか。
倒伏の程度、過剰症や欠乏症など生理障害が出ていないか確認します。病害虫の発生は窒素過剰が影響している場合もあります。
目標に対して結果はどうであったか確認します。生育不良や取り不足、品質悪があれば原因を究明しましょう。
【プロの視点】フローチャートの活用法
このチャートの各ステップで「自社ではどうしているか?」「どこに課題があるか?」を自問自答してみてください。
「分析はしているが、③の目標設定が曖昧だった」「⑥の資材選定を価格だけで決めていた」など、改善点が見つかるはずです。
これは、あなたの経営のPDCAサイクルそのものです。
STEP 2: 作物ごとの「急所」を一覧で比較・把握する
次に、北海道の主要5大作物について、「特にどの土壌分析項目に注目すべきか」「施肥設計上の課題は何か」を一覧で比較し、それぞれの作物が持つ個性を掴みましょう。
この比較表を使えば、輪作体系全体を見渡した上で、作物ごとの注意点が明確になります。
| 項目 | 水稲 | 大豆 | 秋小麦 | 甜菜 | 馬鈴薯 |
|---|---|---|---|---|---|
| 注目すべき指標 | 地力窒素: 窒素施肥量の根幹 ケイ酸: 倒伏・病害耐性 | リン酸: 初期生育・根粒着生 カリ: 子実の肥大 | pH: 越冬前の生育 窒素: 収量を左右する春追肥 | pH/ホウ素: 心腐れ防止 窒素: 過剰で糖度低下 | Mg/K比: 品質に直結 pH: そうか病リスク |
| 経営上のリスク | 窒素過剰による倒伏、食味低下 | 窒素過多による根粒菌の働き抑制 | 追肥タイミングの失敗による減収 | 窒素過剰による糖度低下(買取価格への影響) | カリ過剰によるMg欠乏(品質・収量低下) |
| 施肥設計のポイント | 地力窒素を差し引いた施肥量計算。ケイ酸で稲体を強化する。 | 根粒菌を最大限活かすため、窒素施肥は原則不要。 | 土壌診断に基づき、春先の追肥(幼穂形成期)を的確に行う。 | pH矯正とホウ素施用をセットで考える。生育後半の窒素は絶対に効かせない。 | Mg/K比を「2」以上に矯正する。デンプン価のため塩カルを避け硫カリを選択。 |
| 具体的な資材選択 | 緩効性肥料、ケイ酸カリ、転炉スラグ | ヨウリン、過リン酸石灰(リン酸不足時) | 硫安、尿素(追肥用) | 苦土石灰、ホウ砂、専用化成肥料 | 硫酸カリ、硫酸マグネシウム |
【プロの視点】比較表の戦略的活用法
この表を眺めて、「最も肥料費割合が高い作物はどれか?(ビート)」「Mg/K比が最も収量に直結するのはどれか?(馬鈴薯)」といったように、最も投資対効果(ROI)が高い改善策はどこにあるかを探すことができます。
全ての作物を一度に完璧にする必要はありません。まずは最もインパクトの大きい作物から着手するのが、賢明な経営判断です。
STEP 3: 具体的な土壌データで「思考プロセス」を追体験する


全体像と各作物の特徴を掴んだ上で、いよいよ具体的な施肥設計のシミュレーションに入ります。STEP2の比較表で示したポイントが、実際の土壌データと結びつくとどうなるのか、プロの思考プロセスを追体験していきましょう。
【仮想圃場データ】
〇土壌: 黒ボク土
〇分析値:
・pH(H₂O) 5.8
・ CEC 25meq/100g
・有効態リン酸(トルオーグ) 35mg/100g
・交換性カルシウム 290mg/100g
・交換性カリ 28mg/100g
・交換性マグネシウム 20mg/100g
・ケイ酸 8mg/100g
〇塩基バランス: Mg/K比 1.4(カリ過剰気味)
1. 水稲|地力窒素を評価し倒伏を防ぐ「減肥」と「ケイ酸施用」の技術


【思考プロセス】
・リン酸:30mg以上のため表面的には「過剰」と判断されるが、これは許容範囲。
・追肥:生育中期の茎数と葉色を観察して判断。不足の可能性があるなら迷わず窒素や苦土を追肥。
・ケイ酸:黒ボク土では不足しがち。特に基準値の15mgを超えることは稀。倒伏防止と品質向上のため、ケイカル100kg施用は必須と考える。
窒素追肥にはリスクも伴うので懸念する場合もあると思います。そんなときは苦土がおすすめ。①リン酸とケイ酸を吸収を促し、②葉色もグッと向上する という効果があるので、極端な倒伏リスクはありません。



有名な米どころは苦土過剰地帯と言われます。たとえば新潟県魚沼市。タンパク低減効果もあると言われる苦土は、収量だけでなく、食味向上の期待も持ち合わせます。
2. 大豆|根粒菌を活かし、コストを抑えるリン酸・カリ管理


【思考プロセス】
・pH:5.8では物足りません。CECが25meq/100gと非常に高いのでpH矯正には相当量の石灰投入が必要と想定。炭カル、生石灰を問わず、躊躇せず100kg/10a施用。
・窒素:黒ボク土で物理性は良いと考えられ、初期成育は良好と想定。施肥基準同等かやや少なくても問題なし。
・塩基バランス:カリ過剰を考えると苦土が効くと考えられる。過剰気味のリン酸も活かせるので有効な一手。
大豆は初期成育が重要。何らかの理由で畝がふさがるのに時間を要していれば迷わず追肥しましょう。



根粒菌の着生を考えると窒素は制限したいですが、栄養成長が進まないのではそれ以前の問題です。まずは「体」を作るのが最優先。
3. 秋小麦|越冬率と春先の追肥判断が鍵


【思考プロセス】
・pH:大豆同様、石灰資材を100kg/10a施用。塩基バランスを考えると苦土石灰など苦土が含まれるものが有効。
・窒素:適期播種ができるのなら施肥基準同等かやや少なくても問題なし。万が一、越冬前生育に問題があれば根雪前に追肥を検討。
・追肥:起生期の茎数を踏まえた窒素追肥を考える。
連作の場合は麦稈の処理、生物性の改善に注力しましょう。ここで投資を惜しむと翌年の重要な時期に生育不良を引き起こし、余計な肥料費と防除コストにつながる可能性があります。
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4. ビート(甜菜)|糖度低下を招く「窒素過剰」と心腐れを防ぐpH・ホウ素管理


【思考プロセス】
・pH:顕著に低く、発芽障害、初期成育不良の懸念。最低でも生石灰100kg/10a施用。pH矯正力と塩基バランスも考慮すると苦土生石灰が最適。
・微量要素:pH上昇に伴い、各種微量要素の溶出が減るため肥料で補給しておけば安心。特にホウ素。
・追肥:地力窒素がそれなりに湧くと想定。生育後半の追肥は慎重に行う。
石灰資材としてライムケーキを使用できるのなら活用しましょう。プランターにサブタンク設備があれば、ここを活用して石灰資材を入れるとベスト。播種後1か月を目途に生石灰追肥もよし。



本音として、pH6.0未満でのビート作付けは避けるべきです…。
5. 馬鈴薯|品質を左右する「塩基バランス」との闘い


【思考プロセス】
・pH:pH5.8は、そうか病リスクを考えるとちょうど境目。種子消毒など徹底。
・苦土:最大の懸案事項はMg/K比が1.4と低いこと。 このままではマグネシウム欠乏がほぼ確実。対策として、基肥のカリを減らし、水酸化マグネシウムを施用する。
・追肥:苦土の補給として硫酸マグネシウム、石灰の補給として硫酸カルシウムが望ましい。
本格的にそうか病を抑えようとするならpH5.5未満が条件。輪作を考えると容易ではないので、適切な防除を取りましょう。糖の転流を促すカリも重要ですが、この圃場ではカリ過剰のため、カルシウムとマグネシウムを意識します。



収量と品質、両方にとってCaとMgは重要です。高温干ばつ対策にもなります。
土壌分析を「儲かる農業」のPDCAに組み込む戦略的ステップ


土壌分析は、一度きりのイベントで終わらせては意味がありません。経営改善のサイクルに組み込むことで、その価値は倍増します。
- 効果的な土壌サンプリング戦略(Plan)
圃場の四隅と中央の土5カ所を採取し、混合して1つのサンプルとするのが基本です。より高度な分析を目指すなら、収量コンバインのデータと重ね合わせ、「高収量エリア」「低収量エリア」で別々にサンプリングすると、地力ムラの原因究明に繋がります。 - 分析機関の選び方と依頼時のポイント(Do)
JAや民間の企業や分析センターなど選択肢は様々です。毎年同じ機関に依頼することで、データの継続性が保たれます。依頼時には、作付け履歴や次作の作物、目標収量を伝えることで、より精度の高い施肥設計アドバイスが得られます。 - 複数年のデータを活用したトレンド把握(Check)
最低でも3年分の分析結果を表計算ソフトなどに入力し、圃場ごとにpH、リン酸、カリ、塩基バランスなどがどのように変化しているかをグラフ化してみましょう。「石灰を投入してpHは目標通り上がっているか」「リン酸は過剰に蓄積していないか」など、圃場の地力変動トレンドを把握することが重要です。 - 次年度の施肥設計への反映(Action)
トレンド分析の結果と次年度の作付け計画に基づき、施肥設計を修正します。これにより、場当たり的ではない、長期的な視点に立った土壌管理と経営改善が実現します。将来的には、これらのデータを活用してトラクターに搭載されたコントローラーと連動させ、リアルタイムで施肥量を調整する「可変施肥」へと発展させることが、大規模経営における次なる目標となるでしょう。
意外かもしれませんが、「作り手の意向」を伝えることは重要です。診断結果を助言する際、どれくらいのコストをかけられ、どの程度のリスクを取れるのかがわからないと適切なドバイスができないからです。



施肥を変えてみたが、そもそも今年の天候では改善されているのか判断できない…。



よくある話です。悩むところだと思いますが、理論的に正しい改善策を打っているなら、できるだけ翌年も継続しましょう。
“成功とは偶然ではない。継続的な進歩こそがそれをもたらす。”
―ダウェイン・ジョンソン
“エネルギーと粘り強さはすべてを征服する。”
— ベンジャミン・フランクリン
FAQ|よくある質問


土壌診断書を手にしたあと、「この数値は良いのか悪いのか?」「何を優先して直せばいいのか?」と迷う方は多いものです。以下では、現場で最も質問の多い項目を10件ピックアップし、土壌医の実務目線で答えます。
- pHが6.8でも石灰は必要ですか?
-
必要な場合があります。pHが6.8で一見“アルカリ寄り”でも、CaとMgの比率(塩基バランス)が崩れていれば、Ca過剰でMg欠乏の可能性があります。その場合は石灰ではなく、苦土石灰または水酸化マグネシウムで補正します。
- ECが高いとき、どう対処すればいいですか?
-
EC(電気伝導度)が0.3mS/cmを超える場合、肥料濃度が高すぎるか、排水不良で塩類が滞留しています。
最優先は排水改善。暗渠・砕土・けい酸資材などで通気を確保します。その上で、施肥量を調整し、有機物の分解を促してイオンバランスをリセットします。 - CECが低い土壌は、どうすれば改善できますか?
-
CEC(保肥力)が15未満の場合、有機物と粘土の両方が不足しています。
短期的には腐植酸や有機質肥料、長期的には堆肥・緑肥・腐植酸肥料で底上げを。
目安: バーク堆肥2t/10a+腐植酸液0.5L/10aを年1回。 - 苦土石灰と炭カル、どう使い分ければいいですか?
-
- 炭カル(炭酸カルシウム):pH矯正用。酸性を中和する。
- 苦土石灰(炭酸カルシウム+マグネシウム):Mg補給+pH矯正。
pH6.5以上の圃場では炭カルより苦土石灰を優先し、Mg比を整えます。
※連用でCa過剰に傾く場合は、硫酸カルシウムを活用する。 - 有効リン酸が低いとき、どの資材が効果的ですか?
-
pHが6.0未満でリン固定が起きやすい状態です。リン資材単独では改善しにくいため、pH矯正+有機物供給を併用してください。具体的には、炭カル+バーク堆肥の組み合わせが有効。また、リン酸可溶化菌(バチルス系)を利用するのも一案です。
- Ca・Mg・Kのバランスはどう見るのが正しいですか?
-
単独の数値ではなく、**塩基飽和度比率(Base Saturation)**で判断します。
理想的な比率は以下の通り:元素 理想比率 コメント Ca 約60% 骨格形成、細胞壁安定 Mg 約20% クロロフィル生成、酵素活性 K 約5% 光合成・糖輸送 Na 〜5%未満 少量でOK(過剰注意) この比率が崩れると、吸収阻害や養分競合が起きやすくなります。
- 「ECが低いのに生育が悪い」のはなぜですか?
-
ECが低い=肥料濃度が薄いとは限りません。CECが低く、肥料保持力がないため、施肥後に養分が流亡している可能性があります。つまり「肥料が効かない土」。CECを上げる方向(腐植資材・有機物)で対処すべきです。
- 酸性が強い(pH5.5以下)場合、どのくらい石灰を入れればいい?
-
目安として、一度に炭カルや生石灰で100kg/10a目安で矯正していきましょう。即効を狙うより「少量ずつ数年かけて調整」が安全です。100kg以上を入れてもそれほど効果的ではありません。
- 再分析はどのくらいの頻度で行うべきですか?
-
状況によりますが、筆者は3~4年に1回を推奨します。改善計画を実施した圃場では翌年再分析が望ましいです。
理由:- 土壌には緩衝能があり、短期に診断結果は変わらない。
- 複数年かけて改良資材の効果を検証していく長期視点が重要。
- 翌年だと作物や施肥が変わるため「同条件で比較」が難しくなる。
- 冬の凍結や乾燥は土壌改良に影響しますか?
-
あります。北海道では凍結融解の繰り返しにより、団粒構造が崩れたり、塩基類が移動します。
春先の分析では一時的に数値が変動するため、採取は播種前(雪解け安定後)が理想です。
また、冬期は腐植の分解が遅れるため、秋の堆肥投入が最も効果的です。
まとめ
本記事では、土壌分析を北海道の大規模輪作経営における戦略的ツールとして活用するための、プロの視点からの読解術と実践シナリオを解説しました。
- 土壌分析は、肥料高騰や環境配慮の時代において、科学的根拠に基づいた農業経営を実現するための必須ツールである。
- 自圃場の土壌タイプ(黒ボク土、泥炭土など)の特性を理解することが、分析結果を正しく解釈する第一歩となる。
- 診断書の各数値(pH, CEC, リン酸, 塩基バランス等)が持つ「経営的な意味」を読み解き、拮抗作用や分析法の違いまで考慮することがプロの読解術である。
- 土壌データに基づき、作物別の特性(稲・豆・麦・甜菜・馬鈴薯)に応じた施肥シナリオを組み立てることで、コスト削減と収量・品質向上を両立できる。
- 単発の分析で終わらせず、PDCAサイクルに組み込み、データを蓄積・分析し続けることで、土壌分析は長期的な経営改善への投資となる。
土壌は、あなたの最も価値ある経営資産です。その声に耳を傾け、対話し、ポテンシャルを最大限に引き出すこと。それこそが、これからの北海道農業を勝ち抜くための、最も確実な戦略なのです。



資産=機械や倉庫などの「設備」と考えられがちですが、最も重要な生産資産は土壌です。
【耳で学ぶ】明日からの土壌談義、一緒に始めませんか?
長い記事にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!



内容は理解できたけど、他の農家はどうしてるんだろう?



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