この記事で解決できるお悩み
・噂は本当?最新研究が証明したエタノールの「3つの効果」と「メカニズム」
・計算不要!現場ですぐ使える最適な「希釈倍率」早見表(0.05%〜0.15%)
・「薬害で枯れた…」を防ぐために絶対知っておくべき3つのリスク
・バイオスティミュラントより安い?10aあたり約240円のコスト試算

「またこの暑さか…」
「高温でトマトの生育が完全に止まった…」
毎年のように更新される猛暑記録。夏の高温は、もはや異常気象ではなく、向き合うべき「新たな標準」です。あらゆる対策を講じても、収量・品質の低下、最悪の場合は枯死といった深刻なダメージに、多くの農業経営者が頭を悩ませています。
そんな中、近年「エタノール」が植物の高温耐性を劇的に高めるという研究成果が、理化学研究所(理研)や大学から次々と発表され、大きな注目を集めています。
しかし、
- 「本当に効果があるのか?」
- 「どう使えばいい?濃度は?」
- 「コストは?リスクはないの?」
といった現場目線の情報が錯綜しており、導入に踏み切れないのが実情ではないでしょうか。
そこで、本記事では、土壌医であり、農業経営アドバイザーでもある私が、最新の研究結果と全国の先進農家の実践事例を融合させ、農業の高温対策としてのエタノールの実力を、日本で一番詳しく、そして分かりやすく徹底的に解説します。
結論:エタノールは植物の防御機能を事前に起動させることで高温ストレスを和らげられますが、0.05〜0.1%の低濃度での葉面散布と小区画試験が必須です。
この記事は、巷にあふれる断片的な情報をつなぎ合わせる必要がないよう、あなたの疑問すべてに答える「完全版」です。最後まで読めば、エタノールがあなたの経営にとって強力な武器になるか、明確な判断が下せることをお約束します。



「土壌医」で「農業経営アドバイザー」、「10年で300軒以上の農家さん」とコミュニケーションを取ってきた私が解説します!
なぜエタノールが効くのか?最新研究が解き明かした「酢酸」と「3つの防御スイッチ」





「アルコールをかけるだけで強くなるなんて、眉唾だ」
そう思われるのも無理はありません。しかし、これはオカルトではなく、植物生理学に基づいた精緻なメカニズムです。
理化学研究所の最新研究(2022年、2024年発表)により、その核心がついに解明されました。キーワードは「代謝変換」です。
(参考:理化学研究所「エタノールがトマトの高温耐性を高めることを発見」 / 筑波大学「エタノール噴霧によりトマトの耐暑性と糖度が向上する」
実は、植物に取り込まれたエタノールは、そのまま働くわけではありません。植物体内で代謝され、「酢酸(お酢の成分)」に変換されます。この酢酸こそが、植物全身に「緊急事態に備えよ!」という指令を送るシグナル物質として機能するのです。


このシグナルを受け取った植物は、以下の3つの「防御スイッチ」を強力に起動させます。
【遺伝子レベル】細胞の”ゆで卵化”を防ぐ「熱ショックタンパク質」の誘導
高温障害の最大の恐怖は、熱によって細胞内のタンパク質が変性してしまうこと。一度変性したタンパク質は、二度と元には戻りません。
「生卵」が「ゆで卵」になって固まるのと同じ現象です。一度、ゆで卵になってしまっては、元の生卵には戻りませんよね?
エタノール(酢酸シグナル)は、「熱ショックタンパク質(HSP)」を作る遺伝子のスイッチを事前にONにします。
このHSPは、熱で歪みそうになったタンパク質を正常な形に修復したり、守ったりする「介助役(シャペロン)」として働きます。これにより、35℃を超える猛暑でも細胞が機能を維持できるのです。


現場ではこう見える!
猛暑日でも葉がだらりと垂れ下がらず、シャキッとした状態を維持しやすくなります。


【解毒レベル】老化の原因”活性酸素”を消し去る「抗酸化酵素」のブースト
強い日差しと高温は、植物体内に猛毒である「活性酸素」を大量に発生させます。これが細胞膜を破壊し、葉焼けや光合成能力の低下(=老化)を引き起こします。
エタノール処理を行うと、この毒を無害な水に変える「抗酸化酵素(アスコルビン酸ペルオキシダーゼなど)」の活性が劇的に高まることが確認されています。いわば、体内に「高性能な消火器」をあらかじめ配備しておくようなものです。
現場ではこう見える!
高温期特有の「葉色の褪せ(黄化)」や「葉先の枯れ」が抑えられ、緑色の濃さを保ちやすくなります。


【生理レベル】水分を逃さないための「糖類蓄積」と「気孔調節」
面白いことに、エタノールを与えられた植物は、葉の中にグルコースやフルクトースといった「糖分」を積極的に溜め込むようになります。
細胞内の糖濃度が上がると「浸透圧」が高まり、細胞が水分を強力に引き留めようとする力が働きます。同時に、エタノールには気孔を適度に閉じさせる作用もあり、無駄な蒸散を防ぎます。
これにより、高温とセットでやってくる「乾燥ストレス」に対しても、驚くべきタフさを発揮するのです。
現場ではこう見える!
日中の萎れ(しおれ)が減少し、夕方の回復が早くなります。また、トマトなどでは果実の糖度向上という副次効果も報告されています。


【プロの補足】なぜ「濃すぎてはいけない」のか?



じゃあ、たくさん与えれば最強じゃないか?
ここまで読むそう思うかもしれません。しかし、ここに落とし穴があります。
植物にとって、これらの防御スイッチをONにし続けることは、莫大なエネルギーを消費する「非常事態モード」であることを意味します。
防御にエネルギーを使いすぎれば、当然、成長(茎を伸ばす、実を太らせる)に使うエネルギーは残らなくなります。


高濃度のエタノールが「生育抑制」を引き起こすのは、植物が「成長を完全に止めて、全力で防御に振り切ってしまうから」です。
だからこそ、「0.05%〜0.15%」という薄い濃度で、「成長を邪魔しない程度に、防御スイッチだけを軽く入れておく」という寸止めのコントロールが、我々プロの腕の見せ所なのです。


【超実践編】失敗しない!エタノール散布の「調製」と「散布」完全マニュアル



結局、「何を」「どう混ぜて」「いつ撒くか」、現場でどうしたらいいのかよくわからない。
理論武装は完了しました。ここからは、実際にあなたの圃場でエタノールを使うための手順を、ステップバイステップで解説します。曖昧な部分を一切残さないよう、プロの現場のノウハウを詰め込みました。
STEP 0:準備するもの(推奨アイテム)


まずは道具と資材を揃えましょう。
- 無水エタノール(濃度99.5%以上)
- 推奨理由:不純物がなく、濃度の計算が最も簡単で正確だからです。薬局やAmazonで購入可能です。
- ※消毒用(約80%)でも可ですが、添加物(保湿剤など)が含まれていないか必ず成分表を確認してください。
- スポイト または 計量カップ(ml単位で測れるもの)
- 数mlのズレが濃度に大きく影響します。目分量は厳禁です。
- 展着剤(機能性展着剤がおすすめ)
- エタノール自体に展着性はありません。葉への付着効率を高め、効果を安定させるために、通常の殺菌剤散布と同様に展着剤の加用を強く推奨します(例:スカッシュ、アプローチBIなど)。
STEP 1:【保存版】希釈倍率と調製手順





「0.1%とか言われても計算が面倒…」



忙しい農家の皆さんのために、タンク容量別の早見表を作成しました。
基本は「まずは薄め(2000倍)から」が鉄則です。
▼ タンク容量別:エタノール投入量 早見表
| 作る液量 | 【推奨】2000倍 (0.05%) 安全重視のスタート濃度 | 1000倍 (0.1%) 標準的な濃度 | 500倍 (0.2%) リスクあり上級者向け |
|---|---|---|---|
| 10L (背負い動噴) | 5 ml | 10 ml | 20 ml |
| 20L (背負い動噴) | 10 ml | 20 ml | 40 ml |
| 100L (基本) | 50 ml | 100 ml | 200 ml |
| 500L (防除機) | 250 ml | 500 ml | 1000 ml (1L) |
| 1000L (防除機) | 500 ml | 1000 ml (1L) | 2000 ml (2L) |
※上記は「無水エタノール(ほぼ100%)」を使用した場合の量です。
調製の手順(混ぜる順番)
農薬混用時と同様、順番が大切です。
- タンクに水を半分ほど入れる。
- 展着剤を規定量入れて、軽く混ぜる。
- 計量したエタノールを入れる。
- 残りの水を入れながら、しっかりと撹拌(かくはん)する。
- ポイント:エタノールは水によく溶けますが、比重が軽いため、水流でしっかり撹拌してください。
STEP 2:プロが教える「効かせる」散布テクニック


ただ漫然と撒いても効果は半減します。以下の3点を意識してください。
① タイミングは「早朝」一択
- ベストタイム:日の出〜午前8時頃まで
- 理由:
- 植物の気孔が開いており、成分がスムーズに吸収される。
- 気温がまだ低いため、急激な蒸発による葉焼けリスクが低い。
- NG行動:日中の炎天下での散布は、レンズ効果や急激な乾燥で葉を傷めるため絶対に避けてください。
② 狙うは「葉の裏」
- 多くの植物は、葉の裏側に気孔が集中しています。
- 上からサッとかけるだけでなく、ノズルを下からあおり、葉裏に霧が届くように散布してください。
③ 水量は「通常防除」と同じでOK
- びしょ濡れにする必要はありません。「しっとり濡れる程度(十分量)」でOKです。
- 目安:露地野菜なら10aあたり100〜150L、果樹なら200〜300L程度。
STEP 3:よくある「現場の迷い」Q&A


Q. 作り置きはできますか?
A. 基本的にNGです。
エタノールは揮発性が高く、時間が経つと濃度が下がってしまいます。また、タンク内で雑菌が繁殖する原因にもなります。「その日に使い切る」が原則です。
Q. どのくらいの頻度で撒けばいいですか?
A. 「高温波」が来る2〜3日前 + 期間中週1回。
天気予報を見て「来週から猛暑日が続く」と分かったら、その直前に1回目を散布するのが最も効果的(プライミング効果)です。猛暑期間中は、効果を持続させるために7日〜10日間隔で継続します。
Q. 雨が降っても大丈夫?
A. 散布後、乾けばOKです。
散布して葉が乾く前に雨が降ると成分が流亡してしまいますが、乾いて吸収されてしまえば、その後の雨は影響しません。展着剤を入れることで、このリスクを軽減できます。



生育が劣ってから「液肥でなんとかしよう」とケースをよく見かけますが、実は液肥類は過酷な環境がやってくる前に散布するのがポイントです。
コスト試算:エタノール散布は儲かる?経営的視点で費用対効果を検証


新しい技術を導入する際、最もシビアに見るべきは「コスト対効果(コスパ)」です。
いくら効果があっても、経費がかさめば利益は残りません。



ここでは、エタノール散布が経営にもたらすインパクトを、具体的な数字でシミュレーションします。
① 驚異の低コスト:10aあたり「約240円」の衝撃
まず、単価計算です。一般的な高温対策資材と比較してみましょう。
- 無水エタノール(500ml):実勢価格 1,200円前後
- 散布条件:10aあたり100L散布(1000倍希釈=濃度0.1%)
| 項目 | 計算式 | 10aあたりコスト |
|---|---|---|
| 無水エタノール使用量 | 100L ÷ 1000倍 | 100 ml |
| 1回あたりの材料費 | (1,200円 ÷ 500ml) × 100ml | 約 240円 |
| (参考)他社バイオ資材 | 500倍〜1000倍希釈など | 約 2,000円〜4,000円 |


ご覧の通り、一般的な「高温対策用バイオスティミュラント」や「アミノ酸資材」と比較して、材料費は1/10以下です。これは、農業資材の中でも破格の安さと言えます。
② ワンシーズン通しても「ランチ1回分」
高温対策は、夏の間継続する必要があります。
仮に、7月中旬〜8月下旬の猛暑期間(約6週間)に、週1回ペースで計6回散布したとしましょう。
- 1回 240円 × 6回 = 1,440円 / 10a
10a(1反)の畑を守るために、ひと夏でかかるコストはわずか1,500円弱。
この金額なら、もし効果が実感できなかったとしても「痛手」にはなりません。





これが、私がエタノール散布を「ローリスク・ハイリターンの投資」と呼ぶ理由です。
③ 投資対効果(ROI)シミュレーション


では、リターン(利益)はどれくらい見込めるでしょうか?
例えば、夏秋トマト栽培(10aあたり売上 200万円と仮定)で試算してみます。
- シナリオA:何もしない場合
- 猛暑で花落ち・着果不良が発生し、収量が10%ダウン。
- 損失額:200万円 × 10% = ▲20万円の減収
- シナリオB:エタノール散布(経費1,440円)をした場合
- 高温耐性がつき、収量減を5%に食い止めた(5%分の被害を回避)。
- 回避できた損失額:20万円(被害額) ÷ 2 = +10万円の価値


【結論】
たった1,440円の投資で、10万円分の売上を守れる可能性があります。
投資効率(ROI)で見れば、約69倍(6900%)という驚異的なパフォーマンスです。



もちろん、これは皮算用ですが、仮に効果が半分だったとしても十分すぎるお釣りが来ます。
④ 「ついで散布」で作業人件費もゼロに



材料費は安くても、散布する手間(人件費)がかかるじゃないか
鋭い経営者ならそう思うはずです。
しかし、エタノール散布は「通常の防除(殺菌剤・殺虫剤)とのローテーション」に組み込むことが可能です。
(※混用は推奨しませんが、防除の合間の「葉面散布」や「微量要素散布」のタイミングで行えば、セット動噴の準備や片付けの手間は最小限で済みます。)


また、一部の研究では「カルシウム剤」との併用(混用ではなく、同日別タンク散布など)で、さらに細胞壁を強化できる可能性も示唆されています。
普段の管理作業の中にうまく組み込むことで、実質的な作業コストも圧縮可能です。



カルシウムも高温対策に効果抜群の要素です。
【最重要】導入前に知るべき3大リスクと、プロの回避策


エタノール散布は非常に有望な技術ですが、万能の魔法ではありません。使い方を誤れば「薬」は「毒」に変わります。
ここでは、あなたが絶対に失敗しないために、現場で起こりうる3つの大きなリスクとその原因、そしてプロが実践する回避策を包み隠さずお伝えします。
リスク①:【薬害】「葉が焼けた」「生育が止まった」
これが最も頻繁に聞かれる失敗例です。主な原因は3つあります。
高濃度すぎる


- 原因:「濃い方が効くだろう」という思い込み。500倍(0.2%)を超える濃度は、植物に過剰なストレスを与え、防御反応として「成長停止(矮化)」や「細胞死(葉焼け)」を引き起こします。
- 回避策:必ず2000倍(0.05%)からスタートする。 もし効果が薄いと感じても、1000倍(0.1%)までで留めるのが鉄則です。
散布タイミングが悪い


- 原因:日中の高温時に散布すると、葉面でエタノールが急速に蒸発し、濃度が一気に高まります。また、液滴がレンズの役割をして葉を焼く「レンズ効果」も発生します。
- 回避策:散布は「早朝の涼しい時間帯」に限定する。 天気予報で日中の気温が35℃を超えるような日は、特に注意してください。
苗が若すぎる、または軟弱徒長している


- 原因:定植直後の若い苗や、窒素過多で軟弱に育った植物は、ストレス耐性が非常に低いです。そこにエタノールという新たなストレスを与えると、耐えきれずにダメージを受けやすくなります。
- 回避策:定植後、根がしっかり活着してから散布を開始する。 また、日頃から窒素過多を避け、カルシウムやケイ酸を効かせた「硬い体づくり」を心がけることが、あらゆるストレス対策の基本です。
【緊急リカバリー】もし葉焼けさせてしまったら?
軽微な葉焼けであれば、直ちに真水を散布して洗い流し、その後のエタノール散布は一旦中止します。そして、カリウムやアミノ酸系の葉面散布剤で樹勢の回復を促してください。
リスク②:【混用・併用】「農薬と混ぜたら沈殿した」「効果がなくなった」



「どうせ撒くなら一度で済ませたい」



その気持ちは痛いほど分かりますが、それがトラブルの元凶になります。
化学反応のリスク


- 原因:エタノールは有機溶剤の一種です。農薬の乳剤やフロアブル剤と混用すると、製剤の界面活性剤が破壊され、成分が分離・沈殿・固化する可能性があります。これは散布機のノズル詰まりの原因にもなります。
- 回避策:原則「単用散布」を厳守する。 どうしても同日に散布したい場合は、午前中に農薬、夕方にエタノール(またはその逆)など、タンクを分けて時間を空けてください。
効果減衰のリスク


- 原因:他の資材と化学反応を起こすことで、エタノール本来のプライミング効果や、混用した農薬の効果が損なわれる可能性があります。
- 回避策:もしどうしても混用を試したい場合は、必ずバケツなどで少量混ぜてみて、分離や沈殿が起きないか「ビーカーテスト」を行ってください。しかし、それでも効果が保証されるわけではないため、推奨はしません。
リスク③:【過信】「エタノールを撒けば万全」という思い込み
これが最も経営的なダメージが大きいリスクです。
- 原因:エタノールはあくまで植物の「自己防衛能力」を引き出す補助輪です。植物そのものが弱っていたり、水切れや肥料切れを起こしていたりすれば、引き出すべき防御能力すら残っていません。
- 回避策:以下の「高温対策の基本三角形」を常に意識してください。
- 物理的対策(環境制御)
- 遮光ネット、細霧冷房、換気扇、土壌マルチなど、物理的に温度を下げる努力を怠らない。
- 土壌・栄養管理
- 適切な潅水による水ストレスの回避。
- 窒素過多を避け、細胞壁を強化するカルシウムや、蒸散をコントロールするカリウム、耐病性を高めるケイ酸などを適切に施用する。
- バイオスティミュラント(エタノールなど)
- 上記①②の土台があって初めて、エタノールのような資材が最大の効果を発揮します。
- 物理的対策(環境制御)


エタノールは、これら基本対策の効果を「+10%」「+20%」とブーストさせるためのカードであり、ゼロを100にする魔法ではない、と心に刻んでください。
▼物理的対策と土壌・栄養管理の鉄則はこちらの記事で深掘りしています。


よくある質問(FAQ)|プロが現場の疑問にすべて答えます


ここでは、導入を検討する多くの農家さんから実際に寄せられる質問や、あなたが抱くであろう最後の疑問について、土壌医として明確にお答えします。
- 焼酎や、業務スーパーの「アルコール製剤」でも代用できますか?
-
基本は「非推奨」です。特に「キッチン用」は避けてください。
焼酎や日本酒には、糖分やアミノ酸といったエタノール以外の有機物が豊富に含まれており、これらが葉面でカビや病原菌の温床となるリスクがあります。
また、「キッチン用アルコール製剤」などには、除菌効果を高めるための界面活性剤や、保湿成分(グリセリン)、香料などが添加されている場合があります。これらの添加物が、植物にとっては薬害の原因となる可能性が高いため、使用は避けるべきです。
どうしても代用したい場合は、製品の裏面にある「成分表示」を必ず確認し、「エタノール」と「水」のみで構成された、できるだけシンプルな製品を選んでください。しかし、最も安全で確実なのは、やはり「無水エタノール」または「消毒用エタノール」です。
- 農薬や液肥と混ぜても(混用しても)大丈夫ですか?
-
絶対に避けてください。効果の減衰や薬害のリスクが非常に高いです。
「どうせ撒くなら一度で」という気持ちは痛いほど分かりますが、エタノール散布は必ず「単用散布」を厳守してください。
エタノールは有機溶剤として作用し、農薬製剤(特に乳剤やフロアブル剤)を構成している界面活性剤を破壊してしまうことがあります。その結果、
- 成分が分離・沈殿し、タンクやノズルが詰まる
- 薬液が均一に付着せず、「濃い部分」と「薄い部分」ができて薬害ムラが発生する
- 農薬本来の効果が損なわれる
といったトラブルに繋がります。農薬との同時散布は、メリットよりもデメリットがはるかに上回ります。
- 毎年使っても大丈夫?土壌に蓄積して悪影響はありませんか?
-
適切な濃度・方法で葉面散布する限り、土壌への悪影響はまずありません。
ご安心ください。土壌に落下したエタノールは、土壌中の微生物によって速やかに分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。そのため、土壌中に蓄積することはありません。
ただし、これは「葉面散布」での話です。意図的に高濃度のエタノールを土壌に大量潅注(かんちゅう)すると、土壌が一時的に酸欠状態(還元状態)になり、根を傷める可能性があります(これは「土壌還元消毒」という別の技術の応用です)。
あくまで、葉面散布として正しく使う分には、土壌への長期的なリスクは考えにくいです。 - 葉面散布ではなく、ジョウロで株元に与えても効果はありますか?
-
「根からの吸収」という点では効果は期待できますが、効率は悪くなります。
理研の研究では、土壌にエタノールを施用(土壌潅注)することでも、根から吸収されて高温耐性が向上することが確認されています。
したがって、ジョウロで株元に与える方法でも、一定の効果は見込めます。家庭菜園や、プランター栽培での小規模な試験としては有効な方法です。
しかし、広大な圃場では、葉面散布に比べて大量の水と時間が必要になるため、コストパフォーマンスは著しく低下します。また、葉面散布のような「葉裏への直接散布」ができないため、即効性や効率の面では、やはり動力噴霧器による葉面散布が最適です。
- 水稲、小麦、馬鈴薯、ビートなど、北海道の主要作物にも効きますか?
-
現時点では「効果は未知数」であり、安易な全面導入は非常に危険です。
これは最も重要な質問です。現在、研究報告がなされているのは、主にトマトやレタスといった園芸作物が中心です。
イネ科(水稲、小麦)やアブラナ科、マメ科など、作物の種類が違えば、生理的な応答も全く異なる可能性があります。効果がないどころか、特定の作物では予期せぬ薬害を引き起こすリスクもゼロではありません。
もしこれらの作物で試す場合は、必ず圃場の隅の1〜2株から始めるなど、超小規模な観察試験に留めてください。そこで薬害が出ないこと、何らかの良い兆候が見られることを数年かけて確認した上で、徐々に面積を広げる、という極めて慎重な姿勢が求められます。現状では、これらの作物への安易な推奨はできません。
結論:エタノールは「諸刃の剣」。その「柄」を握る知識こそが、最強の武器になる


ここまで、10,000字を超える長い記事を読んでいただき、本当にありがとうございます。
夏の厳しい日差しの中、ただ耐え忍ぶしかなかった高温障害に対し、エタノールという「新たな選択肢」がいかに科学的で、かつ低コストで有望か、ご理解いただけたかと思います。
しかし、私がこの記事で最も伝えたかったのは、エタノールの効果そのものではありません。
それは、エタノールが「使い方を誤れば毒にもなる諸刃の剣」であり、そして、あなたがこの記事で得た「正しい知識」こそが、その剣を安全に使いこなし、作物を守るための唯一の『柄(つか)』になるという事実です。
あなたが明日から実践すべき「3つの鉄則」
この記事で学んだことを忘れないよう、最後にプロとしての「鉄則」を3つだけ、改めてお伝えします。
- 「濃度」こそが命綱。必ず2000倍から。
- 0.05%という数字は、あなたの作物を薬害から守るための「セーフティライン」です。焦って濃度を上げても、良い結果には繋がりません。
- 撒くなら「早朝」。タイミングが効果を最大化する。
- 高温対策は、暑くなる前に行動するのがプロです。日中の散布は百害あって一利なし、と肝に銘じてください。
- 「エタノールだけ」を信じるな。基本管理こそが土台。
- 水、肥料、土。この土台が揺らいでいれば、どんな最新技術も効果を発揮しません。エタノールは、あなたの丹念な基本管理を「もう一段階、上のレベルへ引き上げる」ためのブースターです。
評論家でいるのは今日で終わりです。私が読者あなたに求めるのは、ほんの小さな一歩を踏み出す「実践者」であることです。
【Step 1】今週末、最初の「1列」を始める
この記事を閉じたら、すぐにカレンダーに書き込んでください。「今週の土曜、トマトの端の1列にエタノール2000倍液を散布する」と。コストは数十円。失うものは何もありません。
【Step 2】この記事を「お気に入り」に登録する
このガイドは、あなたが実践で迷った時にいつでも戻ってこられる「教科書」です。スマホのホーム画面に登録し、散布前に必ず「濃度」と「リスク」の章を再確認する習慣をつけてください。
【Step 3】共に戦う「仲間」と繋がる
私のPodcast『土壌医あさひのオモテじゃ語れない農業トーク』やX(旧Twitter)では、こうした技術のさらなる深掘りや、リアルな成功・失敗談も共有しています。一人で悩まず、未来志向の農家コミュニティに参加してください。



ぜひ私のポッドキャストを覗きに来てください。
この番組は、いわば「ラジオの中の勉強会」。北海道で頑張るあなたと同じ仲間たちの悩みや成功事例を共有しながら、明日からの農業がもっと面白くなるヒントを配信しています。
作業の合間やコーヒーブレイクに、ぜひ気軽に再生してみてください。きっと、新しい発見があるはずです。
各種プラットフォームでマルチ配信中です。『土壌医あさひ_農業トーク』と検索してみてください。



私も日々、自己研鑽しています。一緒に農業経営の勝ち筋を考えていきましょう!!
参考文献・出典
- 理化学研究所「エタノールがトマトの高温耐性を高めることを発見」
https://www.riken.jp/press/2024/20240219_1/index.html - 筑波大学「エタノール噴霧によりトマトの耐暑性と糖度が向上する」
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20250912180000.html - JST Science Japan「Spraying ethanol on tomatoes enhances heat stress tolerance」
https://sj.jst.go.jp/news/202511/n1114-02k.html
