
秋小麦「きたほなみ」栽培における最大の課題、それは「窒素追肥を控えると葉色が薄くなる(光合成効率低下)」か、「窒素を増やすと茎数過剰で倒伏リスクが高まる」というジレンマです。小麦の葉色を濃く保ち、倒伏を防ぎながら増収を実現するカギは、葉緑素の骨格をなすマグネシウム(苦土)の戦略的活用にあります。本記事では、この課題を解決し、きたほなみの品質向上に直結する施肥技術をご紹介します。

・きたほなみの茎数過剰で倒伏リスクが高まっている。
・起生期追肥を省いたら、小麦の葉色が薄いまま回復しない。
・土壌診断でリン酸過剰と診断されたが、どうしたらいい?
・葉緑素の骨格となるマグネシウムは本当に必要なのか?



窒素だけに頼ってはいけません。
茎数と葉色は複数の要素が相互に影響しています!
たとえば葉緑素は「窒素×苦土」で構成されています。
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秋小麦「きたほなみ」で倒伏しない茎数管理と葉色改善法
「きたほなみ」では越冬前の茎数に明確な目標が示されています。


もし、起生期の茎数が1,000本/㎡を超える場合、起生期の窒素追肥を制限する指針もありますね。



近年は多くの圃場で茎数が多すぎます。
茎数が多すぎる=窒素過剰だと、葉が垂れて受光態勢が悪化します。下葉に太陽光が当たらないので、光合成ができなくなってしまいます。





指導のとおりに起生期追肥を我慢したら、今度は色が抜けてしまった…。
そうなんです。思い切って起生期を省略して、幼穂形成期から追肥をしたものの、抜けた葉色が上がりきらないまま止葉期や出穂期を迎えてしまった、というケースが散見されます。これでは光合成効率が低下する懸念が生じます私はこのジレンマを解決するカギがマグネシウムにあると考えています。
【科学的根拠】秋小麦の葉色・品質向上に効くマグネシウム施肥技術:葉緑素の役割とデータ
きたほなみの葉緑素・光合成に必須のマグネシウム:葉緑素の化学式とMgの役割
葉色を決定する要因は葉緑素で、その葉緑素の化学式は C₅₅H₇₂O₅N₄Mg。中心にマグネシウム(Mg)が位置し、窒素(N)は周囲を補完する構造です。


つまり
・Mg(マグネシウム)不足=葉緑素の骨格が形成できない
・N(窒素)不足=葉緑素の材料不足
ということになります。
ちなみに、 “C₅₅H₇₂O₅N₄Mg”のうち、
・C=炭素
・H=水素
・O=酸素
と義務教育で習いました。これらは自然界に存在していると見なせば、生産者が補給する窒素×苦土の掛け合わせで葉緑素が作られるとわかります。
データで見るマグネシウムの効果
道総研・中央農業試験場のデータ(2024年)では、マグネシウムを追加した圃場で、


と言うデータが発表されています。ところが、筆者が農家さんを訪問していると、
- 「茎数が多いから硫安を20kg撒いた」
- 「隣と比べてパッとしないから尿素を10kg入れた」
という話をよく聞きます。
たしかに、茎数だけに着目すれば間違いではありませんが、ほとんど誰も苦土=マグネシウムを意識した施肥はしていません。結果的に「茎数は多いが色が薄い」という状態の麦が増えているのです。





普及員さんやJA職員さんも「苦土」を推進しませんからね。
ちなみに、炭素ってどこに存在しているかわかりますか?
答えは有機物です。有機物を説明できますか?端的に言うと「炭素を含む物質」です。炭素が無いのが無機物で唯一にして最大の違い。きちんと畑に有機物入れてますか?
土壌診断で分かる苦土(Mg)とリン酸過剰の吸収促進効果


「苦土(マグネシウム)」を施用することで、作物の生育が劇的に改善した事例が各地で報告されています。苦土は、土壌に蓄積された過剰なリン酸やケイ酸の吸収を助け、その結果、作物の品質と収量を大きく向上させる力を持っているのです。


苦土は、土壌に眠るリン酸やケイ酸といった養分を、作物が利用しやすい状態に変える働きがあります。
これは、まるで「苦土」というキャッシュカードを使って、土壌という貯金口座から必要な養分を引き出すようなイメージです。
文献によれば、カルシウム吸収も促進してくれるスーパーマンのマグネシウム。石灰資材を使用しない農家さんはほとんどいないですから苦土入りの肥料はすごく有益なんです。


苦土はリン酸の吸収と移動を助け、作物体内での両成分の含有バランスを保つ重要な役割を担っていると覚えておきましょう。
リン酸についてはこちらの記事で詳しく解説しています。


北海道秋小麦における低pH アルミニウム障害と苦土改善効果:クエン酸の働き
pHが低いと作物の生育が悪いですよね。特に、直播のビートなんかはてきめんです。そもそも、pHが低いとなぜ生育が悪いのでしょう?
pHが低いと生育が悪い原因は「アルミニウム」の影響
原因は1つではありませんが、大きく影響しているのはアルミニウムの存在です。


まず、上図を見るとわかるように、pHが低いとアルミニウムの溶出が多くなります。



pH6.0以上かどうかがひとつの基準です。
このアルミニウムが植物の根痛みを引き起こす物質なのです。
低pHによってアルミニウムが溶出している土壌で、どれくらい作物の生育が悪くなるかの事例が以下になります。


比較的、耐酸性に優れるえん麦の根はpH4.5側でも十分生育していました。一方、人参、大豆、てん菜の根はいずれもpH4.5側の生育が強く抑制されていました。馬鈴しょの根もpH4.5側では多少は生育している様子が見られたものの、pH6.0側と比べると抑制されていました。
なぜ馬鈴薯の栽培は低pHで行われるのか?それは作物の生育を度外視してもそうか病を抑えたいからです。アルミニウムには殺菌効果もあるので、これによってそうか病菌であるストレプトマイセス属の菌が抑制されます。
苦土(マグネシウム)がアルミニウムの害を軽減する
アルミニウムが生育を阻害する悪いやつだとわかったところで、なぜ苦土が効くのかを解説します。
苦土を吸収した根は大量のクエン酸を放出します。


このクエン酸の生産と根からの分泌が、根の伸長を抑制するアルミニウムの害を軽減してくれるのです。
さらに、作物の根から分泌される根酸=有機酸は微量要素の吸収を促す効果があります。


石灰をきちんと施用してpHを上げた土壌では、今度は逆に微量要素が不溶化してしまい、作物は吸収しにくくなってしまう現象が起きます。そんなとき、根からクエン酸を分泌することでマンガンやホウ素、亜鉛などの吸収しやすくしてくれます。
秋小麦起生期のマグネシウム(苦土)追肥が生育・茎数調整に効く理由


水温が低い低温下でも吸収されやすいのがマグネシウムの特徴です。このため、秋小麦の起生期こそ、マグネシウム追肥が効果的であり、安定的なSPAD値維持につながります。



追肥で重要なのはカリでは?



もちろん、麦類にとってカリは重要です!
なぜカリウムが重要かと言うと、
・光合成産物を穂に送るポンプとしての役割がある
・葉先枯れの原因となるカリ欠乏を防ぐ
という効果が期待できるので、カリを追肥することは非常に有意義です。
ただし、ここで伝えたいことは論点が異なります。
本記事では、冒頭のとおり、茎数をできるだけ増やさないで葉色を上げる方法です。それにはマグネシウムが効果的というのが本記事の趣旨です。
従来の窒素偏重施肥では、
過剰な窒素→茎数増加→倒伏リスク上昇
という課題がありました。
ここで、マグネシウム資材を使用してみてください。そもそもマグネシウムが欠乏すると、
マグネシウム不足→葉緑素の生成が阻害→葉色低下→光合成効率低下となりますが、これを回避できる可能性が非常に高い。
言い換えるなら、
- 窒素量を抑えつつ葉緑素量を維持
- 光合成能力の向上による生育促進
- 過剰分けつ抑制による倒伏リスク低減
が可能になります。
きたほなみ対応:北海道農家向けマグネシウム肥料(苦土)の種類と使い方


ここで問題があります。このとき有効な苦土資材の選択肢が少ないのです。
苦土単肥・苦土配合肥料の選び方(秋小麦/きたほなみ対応)
一般的に、苦土肥料は3種類。
・硫酸マグネシウム
・水酸化マグネシウム
・苦土石灰
硫酸マグネシウム(MgSO₄)は一般的に溶かして葉面散布するものなので、追肥用とは言い難いです。



しかし、秋小麦の起生期に、硫酸マグネシウムの葉面散布を試みるのは、即効性があり非常に効果的でおもしろい戦略です。
選択肢としては水酸化マグネシウムになりますが、こちらもク溶性なので速効とも言えません。苦土炭カルも同様です。
結論、明らかに茎数が必要十分な状況で「追肥は省略する」というのであれば代わりに「水マグ」の使用がいいかもしれません。
マグネシウム配合肥料による追肥・基肥設計ガイド
本命はこちら。マグネシウム配合の肥料があれば理想的です。欲を言えば、窒素と苦土の成分が10%ずつ保証されていれば、20kg/10a散布したときに2kg/10aずつ補給したことになります。



苦土入りの配合肥料はJAや商社でも扱いがあると思うので、最寄りの担当者に聞いてみてください。
秋小麦施肥実践の注意点:pH・塩基バランス管理と失敗例


pH上昇に注意
マグネシウムを施用すると土壌pHが上昇します。即効性の硫酸マグネシウムであれば、ほとんど心配はありませんが、pH6.0-6.5の範囲に収まるようには気を付けましょう。
補足すると、カリウム施用でもpHは上昇します。水素イオンが追い出されるからです。
塩基バランスに注意
マグネシウム、カルシウム、カリウムは拮抗作用があります。マグネシウムを過剰に施用するとカリウム欠乏を引き起こすかもしれません。上記同様に、即効性の硫酸マグネシウムであれば、それほど心配ないとは思いますが。
きたほなみの光合成最大化ワザ:マグネシウム管理で品質UP


前出のように、マグネシウムは葉緑素分子の中心に位置します。光エネルギーを化学エネルギーに変換する「光化学系II」の活性部位を形成しているのです。もし、この構造が欠損すると、
- 光合成速度が最大30%低下
- ATP生成量が減少し、デンプン合成が阻害
- 葉のSPAD値(葉緑素量指標)が35以下に低下
秋小麦でSPAD35未満は致命的。多収はねらえないとあきらめる数値です。
従来の窒素に偏重した施肥では、
- 茎数増加で倒伏リスクを助長するか
- 追肥を我慢して葉色低下を受け入れるか
この二者択一の状況でした。いわゆるトレードオフの関係です。
マグネシウムという第三の選択肢は、このジレンマを解消して一挙両得のポテンシャルがあります!!
北海道産秋小麦「きたほなみ」倒伏防止・増収・品質向上まとめ(土壌診断とマグネシウム管理)


秋小麦「きたほなみ」の栽培において、
- 起生期の茎数を適切にコントロールしながら、
- 葉色を濃く保ち、光合成能力を最大限に引き出すことは、
収量と品質を向上させるための重要なポイントです。
従来の窒素施肥量の調整だけに頼るのではなく、葉緑素の必須成分であるマグネシウムを戦略的に活用することで、この難しい課題に対応できる可能性が広がります。
土壌診断に基づいた適切なマグネシウム管理は、北海道の厳しい気象条件下においても、「きたほなみ」や新品種「きたほなみR」の安定生産と品質向上に貢献する新たな一手となるでしょう。
これからも、北海道の農業現場に役立つ栽培情報や最新トレンドを分かりやすくお届けしていきます。ぜひ一緒に知識を深めていきましょう!
【耳で学ぶ】明日からの土壌談義、一緒に始めませんか?
長い記事にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!



内容は理解できたけど、他の農家はどうしてるんだろう?



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