農薬のラベルを見て、「1000倍~3000倍」という幅に頭を抱えたことはありませんか?
洗剤なら「50Lに20cc」と明確なのに、農薬は範囲が広すぎて「どっちが正解?」と悩む方は少なくありません。
この記事では、土壌医×肥料・農薬販売の現場経験をもとに、病害の発生状況・圃場リスクから逆算する倍率の選び方を実践ベースで解説します。
農薬の倍率範囲、なぜこんなに幅があるのか?
農薬のラベルには「1000倍~3000倍」「500倍~800倍」といった倍率の幅が記載されています。これは、作物の生育ステージ・病害の発生程度・圃場環境によって、必要な濃度が異なることを前提にした登録制度だからです。
濃い=効果が高い、薄い=効かない?
多くの方は「濃い方が効くはず」と考えます。実際、濃度を上げれば殺菌・殺虫効果は高まります。
しかし、薄い倍率でも登録されている=その濃度でも効果が確認されているということです。つまり、「薄いから効かない」わけではありません。
ポイント:倍率の幅は「最低限の効果が出る範囲~最大限の効果を狙う範囲」を示しています。どちらを選ぶかは、圃場の状況次第です。
病害の発生状況で倍率を決める判断基準
倍率選びで最も重要なのは、「病害がどの程度出ているか、これまでの履歴はどうか」という視点です。
判断基準(3段階)
| 発生状況 | 倍率の選び方 | 理由 |
|---|---|---|
| 予防散布(病害がまだ出ていない) | 薄め(2000〜3000倍) | 最低限の効果で十分。コストも抑えられる |
| 発生履歴あり(過去に出やすい圃場) | 中間~濃いめ(1500〜2000倍) | リスクヘッジとして濃度を上げる |
| 初発確認済み(病斑・害虫が既に見える) | 濃いめ(1000倍) | 進行を止めるため、最大限の効果を狙う |
経営判断のポイント
- 予防散布で薄めを選ぶ=薬剤コストを抑え、複数回防除の余地を残す
- 初発後に濃いめを選ぶ=一発で抑え込み、被害拡大による減収リスクを回避
注意:圃場の土壌診断・過去の病害発生記録がない場合、判断精度は下がります。初年度は「中間倍率+様子見」が無難です。
【実践例】秋小麦のアカサビ病、濃いめ?薄め?
ここでは、北海道の秋小麦栽培で頻発するアカサビ病を例に、倍率選びの実践を見ていきます。
ケース1:例年、赤さび病が出やすい圃場
- 状況:過去3年中2年、起生期に赤さび病の初発を確認
- 倍率:1000倍(濃いめ)
- 理由:越冬時に既に菌が残存している可能性が高く、予防的に濃度を上げて初発を遅らせる
ケース2:赤さび病はほぼ出ないが念のため散布
- 状況:過去5年で1回のみ軽微な発生
- 倍率:3000倍(薄め)
- 理由:予防レベルで十分。浮いたコストを他の病害(赤カビ等)の防除に回せる
ケース3:起生期の茎数確認で既に病斑を発見
- 状況:地際の葉に錆色の斑点が点在
- 倍率:1000倍(濃いめ)
- 理由:既に初発。上位葉への蔓延を食い止めるため、最大限の効果を狙う
前提が異なる場合の読み替え:馬鈴薯のそうか病、タマネギのべと病なども同じロジックが使えます。「発生履歴→濃度調整」の考え方は作物を問わず応用可能です。
薄い倍率で効く農薬=効果が高い証拠という視点
ここで、銘柄選定の新しい視点を紹介します。
5000倍・7000・10,000倍で登録されている農薬の意味
農薬販売業者の技術担当者から聞いた話として、「薄い倍率でも効果が出る=それだけ殺菌・殺虫効果が高い成分だから」という解釈があります。
- 1000倍で登録される農薬:効果を出すには濃度が必要
- 5000倍で登録される農薬:少量でも十分な効果が出る(=高性能)
銘柄選定での活用法
| 判断軸 | 選び方 |
|---|---|
| コスト重視 | 薄い倍率(5000倍~)で登録されている薬剤を選び、散布液量を抑える |
| 確実性重視 | 濃い倍率(1000倍~)で登録されている薬剤を選び、初発リスクに備える |
| ローテーション | 系統(有機リン、合ピレ系等)と合わせて、倍率も参考に組み合わせる |
注意:倍率だけで判断せず、系統・残効性・PHI(収穫前日数)・耐性菌リスクも必ず確認してください。
確度:中(メーカー担当者からの情報+現場経験による解釈。学術的な裏付けではなく、実務上の経験則)
倍率選びで失敗しないチェックリスト
実際に散布する前に、以下を確認してください。
散布前チェックリスト
- 過去3年の病害発生記録を確認(圃場ごとのノート・写真)
- 今年の気象条件(多雨・高温→病害リスク高)
- 作物の生育ステージ(初期=予防、中期以降=初発警戒)
- 薬剤ラベルの適用表(作物名・病害名・使用回数・PHI)
- 散布機の性能(微細ノズル→薄めでも均一散布可、粗いノズル→濃いめ推奨)
- 他の防除手段との組み合わせ(耕種的防除・抵抗性品種との併用)
判断フローチャート(簡易版)
- 病害の発生履歴あり?
→YES:濃いめ(
→NO:次へ - 今年の気象条件がリスク高?(多雨・高温等)
→YES:中間~濃いめ
→NO:薄めでOK
確度:高(現場で再現性が高い判断基準)
よくある質問(FAQ)
Q1. 倍率を濃くしすぎると薬害が出ますか?
A. 登録範囲内であれば、基本的に薬害リスクは低いです。ただし、高温時・乾燥時・展着剤の過剰添加は薬害リスクを高めるため、ラベルの注意事項を必ず確認してください。
Q2. 薄めの倍率で散布して効かなかった場合、すぐ濃いめで再散布してもいい?
A. 同一成分を短期間で連用すると耐性菌・耐性害虫のリスクが高まります。再散布する場合は、異なる系統の薬剤を選び、最低でも7〜10日の間隔を空けるのが原則です。
Q3. 倍率の判断に自信がない場合、どうすればいい?
A. 迷ったら中間倍率(例:1000〜3000倍なら2000倍)から始め、翌年以降は発生状況を見て調整するのが現実的です。また、病害虫防除所の情報や、地域のJA営農指導員や普及センターに相談し、地域の病害発生傾向を把握しておくと判断精度が上がります。
まとめ
農薬の倍率選びは、「病害の発生履歴×圃場リスク×経営判断」の掛け算です。
「正解は1つ」ではなく、毎年の気象・作物・圃場ごとに最適解が変わることを前提に、柔軟に判断していきましょう。
今回の要点
- 倍率の幅は「最低限~最大限の効果範囲」を示す
- 予防なら薄め、初発が出ているなら濃いめが鉄則
- 薄い倍率で登録されている薬剤=効果が高い可能性あり(銘柄選定の参考に)
- チェックリストで発生履歴・気象・生育ステージを確認してから判断
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