【土壌診断活用】馬鈴薯でカルシウムが効かない理由|リン酸過剰圃場の施肥設計

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馬鈴薯栽培で「カルシウムは入れているのに打撲が多い」「病害が減らない」と感じたことはありませんか。

その原因は、リン酸過剰による養分バランスの崩れかもしれません。

北海道の大規模経営では、長年の施肥でリン酸が蓄積している圃場が多く、カルシウムを投入してもリン酸と結合して吸収されにくい状態が起きています。

本記事では、土壌診断の読み方から、低リン酸設計の元肥選定、苦土の使い方まで、カルシウムを効かせるための具体的な手順を整理します。

本記事は、私のPodcastで話した内容をもとに、要点を整理して文章化したものです。


目次

馬鈴薯栽培でカルシウムが重要な理由【細胞壁形成と品質の関係】

馬鈴薯の品質を左右する要素はいくつもありますが、カルシウムは細胞壁の形成に直結するため、トップクラスに重要な養分です。

細胞壁がしっかり形成されていないと、以下のような問題が起きやすくなります。

  • 打撲による変色や傷が増える
  • 病害(疫病、腐敗病など)に対する抵抗性が下がる
  • 貯蔵性が悪化し、出荷時の歩留まりが低下する

人間で例えるなら、カルシウム不足は骨粗鬆症のようなもの。

馬鈴薯も外側の細胞壁が脆弱だと、機械収穫時の衝撃や病原菌の侵入に耐えられず、結果として規格外品や廃棄が増えます。

特に馬鈴薯は、葉菜類(キャベツ、レタスなど)と並んでカルシウム要求量が高い作物とされており、土壌診断でカルシウムの値を上限近くまで確保する意識が必要です。

ただし、馬鈴薯栽培ではpH管理との兼ね合いがあるため、単純に石灰を大量投入するわけにはいきません。

この点については後述します。


リン酸過剰がカルシウム吸収を邪魔するメカニズム

リン酸は重要な養分ですが、過剰になるとカルシウムの吸収を阻害します。

その理由は、土壌中でリン酸とカルシウムが結合し、「リン酸カルシウム」という形で固定化されてしまうためです。

土壌中のリン酸固定2パターン:アルミニウムとカルシウムの結合

リン酸は土壌中で以下の2つの形で固定されます。

  1. リン酸アルミニウム(低pH圃場で発生、最も吸収されにくい)
  2. リン酸カルシウム(やや吸収されやすいが、カルシウムも一緒に不溶化)

馬鈴薯はpHを低めに管理するため、アルミニウムとの結合も起きやすい環境です。

しかし、カルシウムを投入すればリン酸カルシウムも増えるため、どちらにしてもリン酸過剰の圃場ではカルシウムが効きにくくなります。

北海道の馬鈴薯圃場でリン酸過剰が起きやすい実態

北海道の圃場では、土壌診断でリン酸の値が基準範囲(10〜30mg/100g程度)を大きく超えているケースが多く見られます。

特に玉ねぎを輪作に入れている経営体では、リン酸が100前後まで蓄積していることも珍しくありません。

このような圃場でカルシウムを投入しても、リン酸と結合して吸収が進まず、期待した効果が出ないという事態が起きます。

▼リン酸過剰を活かす方法はこちらの記事で解説しています

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土壌診断の読み方とカルシウム投入の判断基準【チェックリスト付き】

カルシウムを効かせるには、まず土壌診断で現状を把握することが第一歩です。

土壌診断の確認すべき3項目(Ca・P・pH)

以下の3つを必ずチェックしてください。

  1. カルシウム(Ca)の値:基準範囲200〜350mg/100g程度(診断機関により異なる)
  2. リン酸(P)の値:基準範囲10〜30mg/100g程度
  3. 土壌pH:馬鈴薯では5.0〜5.5程度が目安

カルシウム投入が必要な馬鈴薯圃場の判断チェックリスト

以下の条件に当てはまる場合、カルシウム投入の優先度が高いです。

  • カルシウムの値が基準範囲の中央値を下回っている
  • リン酸の値が30を超えている(確度:高)
  • 打撲や病害(疫病、腐敗病など)が目立つ
  • 前年の貯蔵性が悪かった
  • 機械収穫時の傷が多い

逆に、以下の場合は別の要因を疑う必要があります。

  • カルシウムは基準範囲内だが、マグネシウムやカリが極端に低い(塩基バランスの問題)
  • pHが6.0を超えている(そうか病リスクが高まる)

カルシウムの値が基準範囲内でも、リン酸が高ければ吸収が阻害されている可能性があるため、次項の施肥設計を見直してください。


pH管理とカルシウム資材の選び方【硫酸カルシウム(石膏)が適する理由】

馬鈴薯栽培では、pHを上げすぎるとそうか病のリスクが高まるため、カルシウム資材の選定が重要です。

炭酸カルシウム(石灰)を大量投入できない理由

一般的な石灰(炭酸カルシウム)はpHを上げる効果が強いため、馬鈴薯には不向きです。

土壌pHが5.5を超えると、そうか病の発生リスクが高まるとされています(確度:高)。

硫酸カルシウム(石膏)が馬鈴薯のpH管理に適している3つのメリット

硫酸カルシウムは、pHをほとんど変えずにカルシウムと硫黄を供給できる資材です。

主なメリットは以下の通り。

  • pHを上げないため、そうか病リスクを増やさない
  • 硫黄が含まれるため、土壌の酸性化を穏やかに保つ
  • 水溶性が高く、速効性がある

馬鈴薯栽培では、硫酸カルシウムを基肥または追肥で投入するのが現実的な選択肢です。

硫酸カルシウム投入量の目安と調整基準

土壌診断の結果に応じて調整しますが、一般的には10a当たり30〜50kg程度を目安とします(確度:中)。

ただし、以下の条件に応じて増減してください。

  • カルシウムの値が200未満:60kg以上
  • カルシウムの値が200〜300:30〜50kg
  • カルシウムの値が300以上:追加投入は様子見

リン酸が高い圃場では、カルシウムを上限近くまで投入しても吸収が追いつかない可能性があるため、次項の低リン酸設計と併用することが重要です。


馬鈴薯の施肥設計:低リン酸元肥+苦土でカルシウム吸収を促進する方法

リン酸過剰を改善するには、元肥のリン酸成分を減らし、不足分を他の養分で補う設計が必要です。

慣行高リン酸元肥を低リン酸タイプに見直すメリット

多くの経営体では、N-P-Kが「10-20-14」のような高リン酸タイプの元肥を使用していますが、リン酸が30を超えている圃場では過剰投資です。

土壌中にリン酸が十分蓄積されている場合、元肥のリン酸成分は10〜15程度に減らしてみましょう。様子を見て問題なければ段階的に減らしていくのがおすすめです(確度:中)。

リン酸を減らす時の不安を苦土(マグネシウム)で解消する

「リン酸を減らして生育が悪くなったらどうしよう」という不安は、現場でよく聞かれます。

その場合、苦土(マグネシウム)を併用することで、リン酸吸収を促進しつつ、光合成を強化できます。

苦土の主な効果は以下の3つです。

  1. リン酸の吸収を促進する
  2. 葉緑素(クロロフィル)の構成成分として葉色を濃くし、光合成を活発にする
  3. 光合成産物(糖分、でん粉)を地下部へ転流させる働きを強化する

苦土の投入方法と使い分け(硫酸苦土・水酸化苦土)

苦土は、硫酸苦土(水溶性)または水酸化苦土(緩効性)を使い分けます。

  • 速効性を求める場合:硫酸苦土を10a当たり20〜30kg
  • 緩効性でpHも若干上げたい場合:水酸化苦土10a当たり30〜50kg(苦土の分析値による)

馬鈴薯では塩基バランスが非常に重要です。土壌診断書がない場合や施用量が判断できない場合は、速効性で蓄積しにくい硫酸苦土の方が扱いやすいです。

低リン酸設計元肥を選ぶ3つのポイント

元肥を選ぶ際は、以下の基準で判断してください。

  • リン酸成分が10〜15%のもの(N-P-Kが「10-10-14」や「12-12-12」など)
  • 窒素とカリは作型に応じて調整(早生種は窒素控えめ、晩生種はやや多めなど)
  • 土壌診断でカリも過剰な場合は、カリ成分も減らす(特に牛ふん堆肥を多用している場合注意)

馬鈴薯のカルシウム施肥を実践するステップと経営判断の優先順位

ここまでの内容を、実際の作業に落とし込むための手順を整理します。

カルシウム施肥を実践する5段階ステップ

  1. 土壌診断を実施(秋または春先)
  2. カルシウムとリン酸の値を確認し、チェックリストで判断
  3. リン酸が30超の場合、元肥を低リン酸タイプに変更
  4. 硫酸カルシウムを基肥または追肥で投入
  5. 苦土を併用してリン酸吸収と光合成を底上げ

硫酸カルシウムと苦土投入の費用対効果

硫酸カルシウムと苦土の追加コストは、10a当たり3,000〜5,000円程度です(確度:中)。

一方、打撲や病害による規格外品が仮に20~30%減れば、10haの作付けがあったとして年間数十万円の改善効果が期待できます。

特に貯蔵性が向上すれば、出荷時期の選択肢が広がり、価格変動リスクを分散できる点も大きなメリットです。

馬鈴薯圃場の優先順位を付ける3つの判断基準

以下の条件に当てはまる圃場から優先的に取り組んでください。

  1. リン酸が50超で、打撲や病害が目立つ圃場
  2. 前年の貯蔵性が悪かった圃場
  3. カルシウムの値が200未満の圃場

全圃場を一気に変えるのではなく、優先度の高い圃場で試して、翌年の結果を見てから拡大する方が経営リスクを抑えられます。


まとめ:カルシウムを効かせる施肥設計で馬鈴薯の品質を底上げする

馬鈴薯の品質向上には、カルシウムが不可欠です。

しかし、リン酸過剰の圃場では吸収が阻害されるため、土壌診断で現状を把握し、低リン酸設計の元肥+硫酸カルシウム+苦土の組み合わせで養分バランスを最適化することが現実的な打ち手です。

まずは土壌診断を実施し、カルシウムとリン酸の値を確認してください。

リン酸が30を超えている場合は、元肥の見直しと硫酸カルシウムの投入を検討し、苦土を併用することでリン酸吸収と光合成を底上げできます。

優先度の高い圃場から試して、翌年の結果を見ながら拡大していくことで、経営リスクを抑えつつ品質向上を実現できます。

Podcast(音声)で詳しく聞きたい方へ

この記事のもとになったPodcastエピソードでは、より実践的な事例や、メーカー担当者から聞いた裏話も語っています。通勤中やトラクター作業中に聞きたい方は、Podcast『土壌医あさひのオモテじゃ語れない農業トーク』もぜひチェックしてください。

この番組は、いわば「ラジオの中の勉強会」。北海道で頑張るあなたと同じ仲間たちの悩みや成功事例を共有しながら、明日からの農業がもっと面白くなるヒントを配信しています。

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あさひ

私も日々、自己研鑽しています。一緒に農業経営の勝ち筋を考えていきましょう!!

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