水稲でケイカルを大量投入しているのに収量・品質が伸び悩むなら、土壌診断で石灰(カルシウム)数値を確認し、塩基バランスを整える施肥設計への転換が突破口になります。

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水稲でケイカルを大量投入しているのに収量・品質が伸び悩むなら、土壌診断で石灰(カルシウム)数値を確認し、塩基バランスを整える施肥設計への転換が突破口になります。

ケイ酸100kg施用が当たり前になった北海道の水田で、今注目すべきは「石灰不足」です。土壌診断書で見落としがちなカルシウムの基準値と実測値のギャップ、そして塩基バランスを意識した施肥設計について、現場目線で解説します。

本記事は、私のPodcastで話した内容をもとに、要点を整理して文章化したものです。


目次

水稲栽培でケイカルを入れても収量が伸びない理由

水稲栽培でケイ酸が重要なのは疑いようがありません。倒伏対策、光合成促進、粒張り向上——これらの効果を狙ってケイカルを年間100kg施用している生産者も珍しくないですよね。

一方で、次のような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

  • ケイカルは十分入れているのに、稲が軟弱で倒伏しやすい
  • 収量があと一声伸びない
  • 品質が安定しない

この原因として見落とされがちなのが「石灰(カルシウム)不足」です。

ケイカルはケイ酸とカルシウムの両方を供給できる優れた資材ですが、カルシウム補給という一点に関しては力不足なケースがあります。特に、ケイ酸施用を長年継続してきた圃場ほど、土壌中のカルシウムバランスが崩れている可能性が高いんですね。


土壌診断書の石灰数値をどう読むか

土壌診断書を見ると、石灰(カルシウム)の基準値はCEC(塩基置換容量)によって異なりますが、おおむね200〜350の範囲で設定されています。

ところが、実際の水田の石灰数値を見てみると、次のような傾向があります。

  • 低い圃場:80〜100前後(基準値を大きく下回る)
  • やや低い圃場:150前後(基準値下限に届かない)
  • 基準内でも:200台前半(上限350には遠い)

基準値内に収まっていれば問題ないと考えがちですが、ここに落とし穴があります。

石灰は塩基バランス全体の中で評価すべき成分です。次の章で詳しく解説しますが、塩基バランスを整えるには、石灰は基準値の上限ギリギリまで確保する必要があるんですね。

【確度:高】多くの水田で石灰数値が基準下限〜中程度にとどまっている傾向は、複数の土壌診断データから確認できます。


塩基バランス5:2:1から逆算する石灰必要量

塩基類(石灰・苦土・カリ)は、絶対量よりもバランスが重要です。

一般的に推奨される塩基バランスは次の比率です。

石灰:苦土:カリ = 5:2:1

この比率を前提にすると、塩基全体を100とした場合、石灰は50を占めるべきです。

水稲の土壌診断で塩基バランスを計算する具体例

仮に土壌診断で次の数値が出たとします。

  • 石灰:150
  • 苦土:80
  • カリ:40

石灰は一般的な基準値(200〜350)を下回っており、塩基バランスで見ても「5:2:1」の比率が崩れています。

苦土80、カリ40のバランスを維持するなら、石灰は本来250〜300程度まで上げるのが理想です。

つまり、石灰の基準値が200〜350だとしたら、上限に近い350を目指す方が塩基バランスは整いやすいということです。

【確度:高】塩基バランス5:2:1は一般的な基準値として広く用いられています。ただし、CEC、土性、作物によって最適比率は変動する可能性があるため、地域の指導機関と相談しながら調整するのが無難です。

私の知識の集大成】土壌診断については、こちらで詳しく解説しています

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石灰資材の種類と選び方(炭カル・消石灰・ホタテ・石灰窒素)

石灰資材にはいくつかの種類があり、それぞれ特性が異なります。

水稲で使える主な石灰資材の特徴比較

1. 炭酸カルシウム(炭カル)

  • 速効性:遅効〜中程度
  • 効果の持続性:長い(2〜3年かけて効く)
  • 使いやすさ:安全性が高く、施用の幅が広い

2. 生石灰

  • 速効性:高い(その年から変化が見られやすい)
  • 効果の持続性:短い
  • 使いやすさ:アルカリ性が強いため、施用タイミングに注意

3. ホタテ貝殻石灰

  • 速効性:遅効〜中程度
  • 効果の持続性:長い
  • 使いやすさ:多孔質で有機質を含み、土壌改良効果も期待できる

4. 石灰窒素

  • 速効性:中程度(窒素分は緩効性)
  • 効果の持続性:中程度
  • 特徴:殺菌作用があり、稲わら分解促進、ワキ軽減効果が期待できる
  • 注意点:施用後すぐに播種・移植すると薬害のリスクあり。土壌微生物への影響も考慮が必要

水田の条件別・石灰資材の選び方

選定のポイントは次の3つです。

  1. 速効性を求めるか、持続性を重視するか
  2. コストと施用量のバランス
  3. 併用する他の資材との相性

初めて石灰施用を強化するなら、安全性が高く施用量の幅が広い「炭カル」または「ホタテ貝殻石灰」が無難です。

生石灰は速効性がある分、施用タイミングを誤ると他の資材との反応や土壌pHの急激な変化が起きる可能性があるため、経験者向けと言えます。

石灰窒素は窒素分も含むため施肥設計全体の調整が必要ですが、ワキ対策や稲わら分解促進を同時に狙いたい場合には選択肢に入ります。

【確度:中】資材選定は土壌条件、作付体系、経営方針によって最適解が変わります。初回は少量試験を行い、2〜3年かけて効果を確認するのが安全です。


石灰施用で期待できる効果と注意点

石灰(カルシウム)施用によって期待できる効果は次の通りです。

水稲へのカルシウム施用で得られる主な効果

  1. 細胞壁の強化
    • カルシウムは細胞壁の構成成分
    • 一つ一つの細胞が強くなり、稲全体がガッチリする
    • 茎の強度向上により倒伏リスクが低減
  1. 根張りの改善
    • 根の伸長と分岐が促進される
    • 養分・水分吸収効率が向上
  2. 高温対策
    • 葉の蒸散作用が正常に機能しやすくなる
    • 高温ストレスへの耐性向上
  3. 粒張りの向上
    • 細胞分裂が活発になり、登熟がスムーズに進む

石灰資材を水田に施用する際の注意点

  • 効果が現れるまでの期間は資材によって異なります。炭カルやホタテ貝殻石灰は2〜3年かけて効くため、初年度に劇的な変化を期待しすぎないこと。
  • 石灰窒素は殺菌作用が強いため、施用直後の播種・移植は避け、十分な期間(1週間以上)を空けること。
  • 過剰施用は他の塩基類(苦土、カリ、微量要素)とのバランスを崩す原因になるため、土壌診断をもとに適量を守ること。

【確度:高】カルシウムの生理作用(細胞壁強化、蒸散調節など)は科学的に実証されています。ただし、圃場ごとの効果の大きさは土壌条件や気象条件に依存します。


石灰施用のチェックリストと判断基準

石灰施用を検討する際、次のチェックリストで現状を確認してください。

水稲で石灰施用を検討すべきケースのチェックリスト

  •  土壌診断で石灰数値が基準値(200〜350)の下限付近、または下回っている
  •  塩基バランス(石灰:苦土:カリ)を計算すると5:2:1から大きくズレている
  •  ケイカルを毎年100kg前後施用しているが、収量・品質に伸び悩みを感じる
  •  稲が軟弱で倒伏しやすい、または茎が細い
  •  高温年に品質低下が顕著に出る
  •  ワキが多く、分げつコントロールに苦労している(石灰窒素を検討する場合)

石灰施用量を決める判断基準

上記のうち3つ以上に該当し、かつ土壌診断で石灰数値が250未満なら、石灰施用を強化する価値があります。

施用量の目安は次の通りです。

  • 炭カル・ホタテ貝殻石灰・生石灰:100kg/10a
  • 石灰窒素:窒素分に応じて30~40kg/10a(全体の窒素施肥設計を調整)

初回は全面施用ではなく、圃場の一部で試験的に施用し、翌年以降の生育・収量・品質を比較するのが安全です。

【確度:中】土壌診断の数値、CEC、土性によって調整が必要なため、地域の農業改良普及センターや肥料販売店と相談しながら決めるのが無難です。


実際に石灰を大量施用した圃場の反応

一部の生産者は、水田に生石灰などの速効性石灰資材を継続的に施用しています。

こうした生産者の圃場を観察すると、次のような傾向が見られます。

  • 稲の茎がガッチリしている
  • 倒伏が少ない
  • 生育が安定している

ある事例では、土壌診断で石灰数値が100前後と極端に低い圃場に、生石灰を100kg/10a施用したところ、その年から生育が明らかに改善しました。

具体的には、従来は軟弱で倒伏しやすかった稲が、茎の太さと硬さを増し、収量も向上したとのことです。

この結果を受けて、その生産者は翌年以降も継続して石灰施用を行う方針を決めています。

【確度:中】この事例はあくまで特定圃場での結果です。効果の大きさは初期の石灰数値、土性、気象条件、品種によって変動します。再現性を確認するには、複数年・複数圃場でのデータ蓄積が必要です。

5) FAQ

Q1: 石灰を大量施用すると、苦土やカリのバランスが崩れませんか?

A1: おっしゃる通り、石灰だけを大量投入すると塩基バランスが崩れるリスクがあります。土壌診断で石灰・苦土・カリの現状値を確認し、5:2:1の比率を意識しながら、必要に応じて苦土やカリも同時に調整してください。石灰施用後は翌年または2年後に再度土壌診断を行い、バランスを確認するのが安全です。

Q2: 石灰窒素は使ったことがないのですが、初心者でも扱えますか?

A2: 石灰窒素は殺菌作用が強く、施用直後に播種・移植すると薬害が出る可能性があります。また、窒素分を含むため全体の施肥設計を調整する必要があります。初めて施用するなら、まずは一部の圃場から試験的に導入し、慣れてから面積を増やしていくのが無難です。使用する場合は、施用から播種・移植まで1週間以上空けることを推奨します。

Q3: 生石灰は速効性があると聞きましたが、ケイカルと同時施用しても大丈夫ですか?

A3: 生石灰はアルカリ性が強いため、他の資材との同時施用や施用直後の追肥には注意が必要です。特にアンモニア態窒素肥料と混ぜるとアンモニアガスが発生し、肥料成分が揮散する可能性があります。消石灰を施用する場合は、他の資材との施用間隔を1〜2週間空けるのが安全です。不安な場合は、地域の農業改良普及センターや肥料販売店に相談してください。

まとめ:ケイ酸一辺倒から塩基バランス重視へ

水稲栽培でケイカルを大量投入しているのに収量・品質が伸び悩むなら、一度立ち止まって土壌診断の石灰数値と塩基バランスを確認してみてください。

ケイ酸施用は今後も継続すべきですが、それだけでは解決しない壁があるなら、石灰(カルシウム)という「別の手札」を切るのが突破口になる可能性があります。

石灰資材の選択肢は多く、それぞれ特性が異なります。自分の経営スタイル、圃場条件、コスト感覚に合った資材を選び、まずは試験的に施用してみることをおすすめします。

音声で詳しく聞きたい方へ
この記事のもとになったPodcastエピソードでは、より実践的な事例や、メーカー担当者から聞いた裏話も語っています。通勤中やトラクター作業中に聞きたい方は、Podcast『土壌医あさひのオモテじゃ語れない農業トーク』もぜひチェックしてください。

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あさひ

私も日々、自己研鑽しています。一緒に農業経営の勝ち筋を考えていきましょう!!

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