
秋は茎数が少なかったのに、今年はよく穫れた。なんで?来年も同じ施肥でいいのか?
2026年産の秋まき小麦を振り返り、そんな疑問を持った方もいるでしょう。収穫前の見た目と収量の結果が違えば、何がよかったのか迷うのも自然です。
越冬前の茎数が少なくても、その後の穂数確保や粒の充実によって、増収した農試がありました。
成熟期の穂数が少なかった北見農試では、千粒重が重く、子実重は平年を上回っています。
一方、十勝農試では千粒重が平年を下回っても増収しました。「粒が太ったから豊作」と、一つの理由で説明することもできません。
この記事では、道総研の作況原表と北海道農産協会の調査、地域別の施肥指針を照合し、次の疑問を整理します。
- 秋の茎数が少なくても増収するのはなぜか
- 2026年産の結果には、どんな違いがあったか
- 2027年産の窒素追肥を、何を見て決めるか
- 麦稈をすき込んだ圃場では、次作に向けて何を確認するか
読み終えたら、今年の好結果をそのまま繰り返すのではなく、自分の圃場で確かめる項目を絞れるようになります。
2026年産の秋まき小麦は、何がよかったのか?
まず押さえたいのは、増収に至った経過が農試によって違う点です。秋の茎数、成熟期の穂数、粒の重さを分けて見てみましょう。
秋の茎数が少なくても、その後の結果は分かれた
北海道農産協会の現地調査では、播種期の降雨による遅れや、秋の低温による茎数不足の傾向が報告されています。融雪は早く、春以降は生育が前進しました。
ただし、調査は全道の全圃場を測ったものではありません。調査日は6月17・18・22・23日、7月2・3日で、収穫前の生育評価です。7月16日公開、8月7日更新の記事である点も区別しておきます。北海道農産協会「令和8年産小麦作柄現地調査」
道総研の各農試でも、次のように秋の茎数はそれぞれの平年を下回りました。
| 農試 | 秋の茎数:本年(平年)本/㎡ | 調査時点 |
|---|---|---|
| 上川 | 620(765) | 2025年10月20日 |
| 十勝 | 1,180(1,403) | 2025年11月15日 |
| 北見 | 353(1,455) | 2025年11月20日 |
| 中央 | 1,079(1,182) | 2025年11月・日付記載なし |
※上川の値は10月20日の調査です。ほかの農試の11月値と同じ「越冬直前の最終茎数」としては扱えません。
秋の数値だけなら、どの農試も増収を予想しにくいように見えます。ところが、収穫時の結果は同じではありませんでした。
穂数・千粒重・子実重で見ると違いがわかる
2026年8月の作況報告から、「きたほなみ」の成熟期穂数と収穫成績を並べました。かっこ内は各農試の平年値です。
| 農試 | 穂数 本/㎡ | 千粒重 g | 子実重 kg/10a | 子実重の平年比 |
|---|---|---|---|---|
| 上川 | 723(598) | 41.3(38.8) | 855(584) | 146% |
| 十勝 | 831(737) | 37.9(39.0) | 1,029(802) | 128% |
| 北見 | 581(784) | 42.3(36.9) | 788(681) | 116% |
| 中央 | 700(764) | 39.3(39.6) | 743(889) | 84% |
上川は、成熟期の穂数と千粒重がともに平年を上回りました。十勝は穂数が多く、千粒重は軽くなっています。北見は穂数が少ない一方、千粒重は重く、子実重も平年以上でした。
中央では穂数・千粒重・子実重が平年を下回っています。同じ年でも、増収した試験圃場ばかりではありません。
越冬前の茎数だけでは、収穫時の穂数や子実重は決まりません。 春以降の穂数確保と粒の充実は、農試ごとに異なりました。
※各平年値は、前7か年から各場所定の豊凶年を除いた5か年平均です。除外年は上川2023・2020年、十勝2021・2022年、北見2019・2022年、中央2023・2021年と異なります。今回確認した小麦の原表だけでは、水分換算や選別条件が4農試で統一されているかまで確認できません。場間の収量順位ではなく、各場の本年対平年の違いを見る表です。
出典:道総研の2026年8月作況報告。上川・PDF5頁 表4、十勝・PDF4頁、北見・PDF5頁、中央・PDF6頁。越冬前の茎数も同じ原表から整理。
登熟に有利な条件はあったが、気象だけでは説明できない
登熟に有利な経過は見られましたが、2026年の収量差を気象だけで説明することはできません。
調査時期や観測地点、病害の有無も分けて確認します。
登熟とは、出穂・開花後に粒が充実していく過程です。葉で作った光合成産物が子実へ送られるため、日射、水分、気温、葉の健全さなどが関わります。
資料ごとに、確認できたことと読み取りの限界を並べます。
| 資料・確認できたこと | 読み取るときの注意 |
|---|---|
| 北海道農産協会の調査では、調査時点までの出穂後の条件が良好と評価 | 収穫前の見通しを、その後の全期間・全圃場の実績へ広げられない。令和8年産小麦作柄現地調査 |
| 北見農試は出穂期が6月2日(平年より5日早い)、成熟期が7月20日(1日遅い)。出穂から成熟までの期間は平年より6日長く、千粒重も増加 | 粒の充実を考えるうえで注目できる経過。気象だけの効果と確定した結果ではない。北見・PDF5頁 |
| 中央農試では縞萎縮病の発生を報告 | 病害は確認事項の一つ。病害だけで減収分すべてを説明できる資料ではない。中央・PDF5頁 |
| 気象庁の日別値では、比布・芽室・北見・長沼の日照時間が、同じ日付の平年値より長い | 減収した中央に対応する長沼でも同じ傾向。日照だけで増減収を説明できない。気象庁「過去の気象データ検索」 |
気象の数値は、農試の試験圃場で測った値ではありません。
観測地点との比較であり、北見の観測地点と訓子府にある北見農試も別地点です。気象の平年は1991~2020年で作況表の平年とは異なり、日照時間には2021年以降の推計方法変更があります。観測地点の日照差を、そのまま増収効果へ換算できません。
北海道全体の収穫量は、この農試成績だけでは確定できません。
2026年11月2日に確認した農林水産省の公式ページでは、2026年産麦類の収穫量結果は未掲載。11月公表予定です。農林水産省・令和8年公表予定
茎数が多くなくても秋まき小麦が増収する理由
茎数は重要な指標ですが、収量そのものではありません。収穫につながる穂と、その穂につく粒まで見ていきましょう。
茎数と穂数は、数える時点も意味も違う
小麦は、主茎に加えて株元から新しい茎を出します。この枝分かれを分げつと呼び、主茎と分げつを合わせて数えるのが茎数です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 茎数 | 調査した時点の主茎と分げつの数 |
| 有効茎 | 最終的に穂をつける茎 |
| 無効分げつ | 穂をつけず、収穫に結びつかない分げつ |
| 穂数 | 形成された穂の数 |
秋や起生期に数えた茎が、すべて穂になるわけではありません。春以降の分げつや茎の生き残り方によって、成熟期の穂数は変わります。
したがって、「秋の茎数が少ない」と「成熟期の穂数が少ない」は別の話です。上川・十勝の結果を、北見と同じ経過として扱わないことが大切です。
収量を決めるのは、穂数・一穂粒数・粒重
同じ面積当たりの子実収量は、基本的に次の関係で考えられます。
子実収量 ≒ 穂数 × 一穂粒数 × 一粒重
千粒重は、1,000粒の重さです。粒の重さを比較する指標として使います。実際の製品収量には、水分換算や選別などの条件も関わります。





この収量構成要素は非常に重要な公式です!あなたはどの数字を増やして増収させようとしてますか?
たとえるなら、収穫量は「荷物を積む箱の数」だけでは決まりません。一箱に何個入るか、一個がどれだけ重いかでも、積み上がる重さが変わります。
穂数が少なくても、一穂粒数や粒重が補えば増収はあり得ます。ただし、この仕組みを示す一般論と、2026年に実際に起きたことは分けてください。
4農試の原表には一穂粒数の記載がありません。
北見の増収分を千粒重だけで説明したり、「一穂粒数が増えた」と確定したりはできません。
穂数は多いほどよいわけではない
穂数を増やす管理にも限界があります。穂が多すぎれば、粒を充実させるための光や養分が不足する場合があるからです。
道総研の研究では、登熟条件が並~良の場合でも、穂数を増やせば製品収量が際限なく増えるわけではありません。登熟不良の条件では、穂数過剰に伴う減収も認められています。
同研究が示した安定生産の目標穂数は、道央・十勝・オホーツク内陸などの対象条件で550~650本/㎡です。道北・オホーツク沿海は、この研究では未検証で、当面は従来の700本/㎡とされています。道総研・2020年普及推進事項 PDF1~2頁
2026年の多収農試で穂数が目標範囲を超えたからといって、その実測値を来年の推奨目標へ置き換えることもできません。好条件の年の成績と、年ごとの変動を含めた安定生産の目標は分けて考えます。
2026年産から読み取れること
今回の結果は、次のように整理できます。
| 確認できた結果 | 読み取る際の注意 |
|---|---|
| 上川・十勝は秋の茎数が少なくても、成熟期の穂数は平年以上 | 秋の不足がそのまま収穫時まで続いたわけではない |
| 北見は穂数が少なくても、千粒重と子実重は平年以上 | 粒重の寄与は考えられるが、増収の内訳すべてはわからない |
| 十勝は千粒重が軽くても増収 | 「2026年は粒重が増えたから多収」を全場へ当てはめない |
| 中央は減収 | 同じ年の気象でも、圃場条件や病害を含めて考える |
「茎数が少なかったから増収した」と因果を逆にしないことも重要です。必要なのは、適した穂数を確保し、その穂の粒を充実させる管理です。
2027年産の秋まき小麦は窒素追肥をどう決める?
2027年産は、2026年秋に播種した小麦です。これから考える中心は、融雪後の追肥管理になります。
今年の収量だけで、来年の窒素量を決めない。 作付けしている圃場の履歴、土壌型、茎数、葉色、土壌窒素、過去の蛋白含有率をそろえましょう。以下は「きたほなみ」の当該指針の整理で、窒素量はすべて成分量kg/10aです。
追肥の時期ごとに、狙いをそろえる
| 時期 | 主な狙い |
|---|---|
| 播種時 | 初期生育を確保する |
| 起生期 | 分げつや穂数の確保を図る |
| 幼穂形成期 | 穂数を調整し、収量形成につなげる |
| 止葉期 | 子実重・蛋白含有率を調整する |
| 開花期以降 | 主に子実蛋白含有率を高める |
起生期は、越冬後に生育が再開する時期です。幼穂形成期は、茎の中で穂の形成が進む時期、止葉期は最後の葉が展開する時期に当たります。地域や年で日付が動くため、生育段階で判断します。
各時期の効果は重なります。「遅く施せば必ず粒が太る」という関係ではありません。幼穂形成期を越えて追肥を遅らせると、葉色の回復が鈍く、減収した試験例もあります。2026年『北海道の小麦づくり』紙面57~58頁・表2、道総研・2023年補遺 PDF1~2頁
道央・道北・道東で判断の入口が違う
| 地域 | 先に確認する指標 | 判断の方向 |
|---|---|---|
| 道央 | 土壌型、起生期茎数、蛋白の見込み | 起生期と幼穂形成期への配分を変える |
| 道北 | 過去の子実蛋白含有率 | 低蛋白・高蛋白の履歴に応じて調整する |
| 道東 | 起生期の土壌硝酸態窒素、茎数、止葉期の生育 | 土壌供給と必要量を照合し、時期別に配分する |


道央の追肥は、土壌型を確認してから茎数を見る。 2023年の研究成果を反映した2026年『北海道の小麦づくり』表10では、次の対応が示されています。
| 道央の土壌型 | 起生期茎数 本/㎡ | 起生期の窒素 | 幼穂形成期の窒素 |
|---|---|---|---|
| 低地土・火山性土・泥炭土 | 1,000以上 | 0 | 6 |
| 同上 | 800以上1,000未満 | 2 | 4 |
| 同上 | 800未満 | 6 | 最大4 |
| 台地土 | 1,300以上 | 6 | 0 |
| 台地土 | 1,300未満 | 6 | 4 |
※起生期~幼穂形成期の部分を抜粋した表です。播種時・止葉期などを含めた年間窒素量ではありません。 起生期2週後~幼穂形成期に葉色が急低下する場合は、速やかな追肥対応が示されています。高蛋白が予想される場合は止葉期の減肥も検討します。同冊子・紙面64頁 表10/PDF10頁
「1,000本未満なら起生期2kg」とだけ覚えると、800本未満の圃場や台地土への対応を取り違えます。まず土壌型、次に茎数を見る順序が大切です。
起生期の無追肥は慎重に判断したい【筆者の見解】



茎数が十分なら起生期の窒素を減らし、幼穂形成期へ回す考え方を支持します。一方、完全な無追肥には慎重で、葉色の維持を意識した2~4kg/10a程度の少量施用を重視しています。
判断の背景にあるのは、その後の葉色の退色や生育停滞への懸念です。



起生期追肥をしなかった結果、葉色が薄くなってしまった。幼形期に追肥増やしたが回復しない。



このような事例が非常に多く確認されます!!
地温が上昇し始める起生期、麦が活動を開始して、本来は養分を吸って発根が進み葉緑素も作られるはず。ところが、追肥をしなかったことで圃場に十分な窒素がなかった可能性が考えられます。
この2~4kgは筆者の判断目安で、道央の上表や道北の指針を置き換える共通基準ではありません。 土壌から十分な窒素供給が見込める条件では、公的指針に沿う無追肥も選択肢になります。
融雪後の圃場で、茎は十分あるのに、葉色が薄くなって見える場面を思い浮かべてください。「本数はあるから大丈夫」と判断する前に、葉色の推移や水分、根の傷みを確かめたいところです。また、黄化だけで窒素不足と決めつけるのも早計です。
少量追肥を選ぶ場合も、必要な合計量に上乗せするのではなく、幼穂形成期への配分と合わせて検討しましょう。
道東は、土壌窒素から合計量を考える
道東の指針では、起生期の深さ0~60cmの土壌硝酸態窒素を使います。残っている窒素量は年で変わるため、毎年の診断が前提です。
目標収量650kg/10a、子実蛋白10.5%という同資料の条件では、次の対応になります。
| 土壌硝酸態窒素 kg/10a | 起生期~幼穂形成期の追肥窒素の合計 kg/10a |
|---|---|
| 2 | 8 |
| 6 | 4 |
道東表の追肥量は、起生期単独の量でも年間総量でもありません。
目標収量は原資料の「粗原」の区分に基づく値です。上の農試成績表と測定条件が同じと仮定して使わないでください。 同冊子・紙面60~62頁 表5~7
起生期茎数1,000本/㎡以上では、原則として起生期を無追肥とする方法が示されています。ただし、窒素地力が低いと予想される場合は例外があります。
1,000本/㎡未満で起生期に2~4kg/10aを施す場合も、その量を上表などで決めた合計から差し引き、残りを幼穂形成期に配分します。「合計8kgに、さらに起生期分を足す」という意味ではありません。
肥料の種類を選ぶ際は、窒素量を決めたうえで、硫黄の必要性、作業性、同じ窒素量での費用を比べます。硫安と尿素の違い・選び方では、その比較軸を整理しています。
収量と一緒に、蛋白や品質の記録も見る
上川農試は子実重が平年比146%でしたが、子実蛋白は8.0%で平年8.9%を下回りました。多収だった事実だけでは、品質面まで評価できません。上川・PDF5頁 表4
道北の指針は、過去の蛋白実績を重視します。低蛋白は9.7%未満、高蛋白は11.3%超という区分に基づき、追肥を調整します。これは当該指針の判断区分で、全品種・全取引の共通基準ではありません。
同表では、起生期6kg/10a、幼穂形成期4kg/10aを基本とし、止葉期は通常4kg/10aです。低蛋白の実績が多ければ止葉期6kg/10a、または4kg/10aに開花後の葉面散布を組み合わせ、高蛋白の実績が多ければ止葉期を0~3kg/10aへ調整します。道央・道東の起生期無追肥を、そのまま道北へ移す対応ではありません。葉面散布を選ぶ場合は、同表の濃度・回数なども確認してください。同冊子・紙面63頁 表9
小麦跡地は、麦稈の処理と土壌診断を次作につなげる
麦稈をすき込んだ圃場では、「分解を進めるために何を入れるか」から考える前に、処理状況と次作を確認しましょう。窒素とカリでは、見直す方向も異なります。
麦稈は窒素を取り込ませる一方、カリを還元する
子実と麦稈が同率で増えるとは限らないため、収量から麦稈量を決めつけられないものの、多収圃場では麦稈量も増えている可能性があります。
麦稈は、炭素に対する窒素の割合が低い、C/N比の高い有機物です。分解する微生物が土壌の無機態窒素を取り込み、一時的に作物の使える窒素が減る場合があります。いわゆる窒素飢餓です。
一方、麦稈に含まれるカリは土壌へ戻ります。すき込んだ圃場で「養分が持ち出されたから全成分を増やす」と考えると、還元分を見落とします。
堆肥化の難しさも踏まえ、できる管理を選ぶ
公的資料では、麦稈は一般に搬出して堆肥化する方法が優先されています。ただ、搬出先や運搬手段、堆肥化の場所、作業時間まで確保するのは簡単ではありません。



堆肥化が理想なのはわかる。でも、搬出して堆肥化まで手が回らない。非現実的だ。
そう感じる方もいるでしょう。そこで考えたいのが、麦稈を圃場へすき込む場合の管理です。細断・分散の状態、後作緑肥の有無、次作、土壌の窒素とカリを確認し、実行できる対策を選びます。



筆者は有機物の圃場還元を基本的に支持しています。条件に応じて添加資材を検討する価値はありますが、すき込めばすぐ増収するわけではない点は留意事項です。
麦稈を直接すき込む場合、公的資料は窒素を加えず、翌年の作付け時に対応する考え方を示しています。
後作緑肥を栽培する場合は別です。添加窒素の一部しか分解に利用されず、降雨や融雪による損失も考慮するためです。筆者の資材利用への見解と、公的資料の基本対応は区別してください。同冊子・紙面83~84頁
なお、条斑病・眼紋病・立枯病などが多発した場合は、可能な範囲で搬出を検討するという例外があります。病害の履歴も判断材料に残します。
硫安?鶏糞?石灰窒素?微生物?【最適な添加資材を考える】
| 資材・管理 | 確認したい点 |
|---|---|
| 硫安 | 窒素供給量、土壌pH、施用時期。分解促進効果を窒素量だけで保証しない |
| 鶏ふん | 窒素に加え、リン酸・カリなどの供給と土壌への蓄積 |
| 石灰窒素 | 製品表示、施用方法、安全上の注意、次作までの条件 |
| 微生物資材 | 製品別の試験結果、試験の条件、費用に見合うか |
| 無施用 | 次作の施肥設計で、麦稈や緑肥の影響をどう調整するか |
絶対的な正解はありません。「窒素の大部分が降雨や融雪で流亡する」という公的資料の見解が当てはまらない場合はないか?考えてみましょう。これは筆者の見解ですが、特に近年は「麦刈後の天候が良好、降雪までの期間が温暖で長い」というケースもあります。実は、土壌中では麦稈の分解が進みやすい状況なのに「窒素飢餓を起こしている」可能性もあります。
資材ごとの分解促進効果は、今回の資料照合で一律に実証されたものではありません。製品別の効能や施用量を同じものとして扱わず、追加費用と作業も含めて判断します。
次作へつなげるときは、次の順序で整理すると取り違えを防げます。
| 圃場の状況 | 次に確認すること |
|---|---|
| 麦稈を全量すき込んだ | 実際の残渣量、細断・分散、次作の窒素対応 |
| 麦稈を搬出した | 刈り残しもあるため、残渣ゼロとみなさない |
| 後作緑肥を栽培した | 種類、生育量、すき込み状況と、窒素供給・取り込みの双方 |
| カリを減らしたい | 次作、交換性カリの診断値、麦稈と他資材からの供給 |


同冊子の表27では、全量すき込みの窒素は3~5kg/10aの増肥方向、カリは7~10kg/10aの減肥可能量が示されています。ただし、子実収量450~600kg/10a、麦稈乾物重500~900kg/10aなどの条件付きです。現在のすき込み時に窒素を足す量ではなく、次作の施肥対応を考える資料値です。
カリの減肥は原則として交換性カリが基準値以上の場合です。てんさい・ばれいしょは基準値内でも減肥する扱いがありますが、他作物や低カリ土壌へ一律には当てはめません。多収量に比例させて増減肥量を大きくしたり、土壌診断による減肥と同じ供給分を二重に差し引いたりしないでください。同冊子・紙面83頁 表27、84~86頁 表28・29
11月時点では、緑肥の種類や播種時期をこれから自由に選べる段階とは限りません。今年すでに行った処理を記録し、次作の施肥と次の小麦収穫後の計画へつなげましょう。
土壌改良は物理性を点検し、化学性ではpHを重視する



土づくりでは、まず排水性や土の硬さを確かめ、化学性ではpHを重視します。根が働ける環境と、養分を利用しやすい状態を合わせて考えるためです。
融雪水や雨水が停滞する場所では、明渠、暗渠の機能、硬い層、排水先を確認します。対策は原因に合わせ、湿った土を無理に施工して練り返さないことも大切です。
大きな工事は、改善できる範囲と費用を見て、施工を見送る判断も必要です。 どうしても現状の物理性に手を加えられない場合もあるでしょう。状況によっては割り切って考えることも重要であり、すべての圃場で同じ工事を優先する意味ではありません。同冊子・紙面77~82頁、86頁
土壌診断の数値を、施肥と改良の判断へつなげる
化学性の確認では、北海道施肥ガイド2020の普通畑の作土に示された基準が入口になります。
| 診断項目 | 基準値 | 読み方 |
|---|---|---|
| pH(H₂O) | 5.5~6.5 | 範囲内でも作物・病害・輪作で目標を選ぶ |
| 有効態リン酸(P₂O₅) | 10~30mg/100g | トルオーグ30分法の値。分析法をそろえる |
| 交換性カリ(K₂O) | 15~30mg/100g | 残渣や資材からの供給も合わせて見る |
| 交換性苦土(MgO) | 25~45mg/100g | pH、石灰・カリとのバランスも確認する |
基準範囲のなかでは、てんさいはpHが高い側、ばれいしょは低い側、小麦・豆類は中間という留意事項があります。そうか病などの病害履歴もあるため、輪作を無視してpH6.5へ統一しません。北海道施肥ガイド2020・畑作物 紙面37頁/PDF4頁
| 診断結果 | 判断する方向 |
|---|---|
| pHが作物の目標より低い | 矯正の必要性と、土壌・資材に応じた量を確認する |
| pHが適正で、苦土も十分 | 苦土石灰を習慣だけで追加しない |
| リン酸やカリが高い | 「きたほなみ」の診断基準に対応する施肥率を確認する |
| pHや養分は適正でも生育が悪い | 排水、硬さ、病害など別の原因を確認する |
「きたほなみ」では、診断値が高い場合に、次の施肥対応が示されています。
| 診断項目 | 診断値 mg/100g | 標準施肥量に対する施肥率 |
|---|---|---|
| 有効態リン酸(P₂O₅) | 30~60 | 80% |
| 同上 | 60以上 | 50% |
| 交換性カリ(K₂O) | 30~50 | 60% |
| 同上 | 50~70 | 30% |
| 同上 | 70以上 | 0% |
| 交換性苦土(MgO) | 45以上 | 0% |
※境界値は資料の区分表記です。診断書と原表を照合してください。苦土施肥0は、必要なpH矯正まで禁止する意味ではありません。土壌のmg/100gを、そのまま肥料現物のkg/10aに読み替えることもできません。同冊子・紙面69頁 表14



肥料が高騰している今、この診断値が高い場合の施肥率こそ重要な指標ではありませんか!?
診断書に並ぶpH・EC・CECなどの項目を整理したい方は、土壌診断と施肥設計の解説も参照してください。本稿の窒素診断は0~60cmの硝酸態窒素、上表は作土の化学性です。採土深や試料の扱いは分析目的ごとに依頼先へ確認します。


減肥の経営効果は、自分の購入条件を使って計算できます。
削減成分量(kg/10a)× 成分1kg当たり単価(円/kg)× 対象面積(10a単位)=肥料代の削減額(円)
これは計算式で、削減額や収量維持の保証ではありません。資材の追加費用、運搬、散布、診断費用は別に加え、収量・品質と合わせて比べます。
2027年産へ生かすには、圃場の履歴を分けて残そう
2026年産でよく穫れた理由を、茎数や気象の一つに絞ることはできません。秋から春の生育、穂数、粒の充実、病害、品質まで分けると、次の管理で確かめる点が見えてきます。



あの葉面散布剤が効いたのかも?



たった一つの変化で収量が大きく変化することは少ないのでご注意。施肥、防除、天候など様々な要素の掛け合わせです。
来春の小麦は、その圃場の情報で追肥を決める
| 今から整理する情報 | 来春に確認する情報 |
|---|---|
| 前作、堆肥・緑肥、土壌型 | 起生期の茎数と葉色 |
| 2026年秋の茎数・生育写真 | 地域の指針で使う土壌窒素 |
| 同じ圃場の収量・蛋白・施肥履歴 | 幼穂形成期までの葉色の変化 |
| 診断値と排水・病害の履歴 | 止葉期の生育と蛋白の見込み |
2026年産を収穫した圃場と、2027年産を作付けした圃場が違う場合、今年の好結果をそのまま移せません。追肥設計に使うのは、原則として今、小麦が生えている圃場の履歴です。
小麦跡地は、次作と残渣の情報をそろえる
2026年に小麦を収穫した圃場では、麦稈の搬出・すき込み、後作緑肥の種類と生育、次作の作物、土壌診断値を一組で残します。
窒素は不足の可能性、カリは還元分を含めて考えます。次作がてんさい・ばれいしょ・豆類のどれかによって、必要な対応は変わります。
すでに終えた作業を責めるための記録ではありません。来春に資材を選ぶとき、「麦稈も緑肥も入ったのに、例年と同じでよいか」を判断できるようにする記録です。
まずは1筆、今年の結果と次の判断を並べよう
今回の成績が教えてくれるのは、秋の茎数だけでは収量を決めつけられない、という点です。春以降に穂数を確保した例も、穂数が少ないまま増収した例もありました。
一方、今年の多収を根拠に、来年の窒素を一律に増減したり、全圃場で麦稈に資材を加えたりはできません。
まずは圃場を1筆選び、今年の結果と次の管理を並べましょう。
- 今年の収量と蛋白・品質の結果
- 茎数を数えた日と、その後の穂数や生育の記録
- 窒素を施した時期と成分量
- 麦稈・緑肥の処理、次作、直近の土壌診断
不明な欄は「不明」で構いません。記録がそろえば、肥料を追加する前に何を確認するか、今年うまくいった管理をどの条件で続けるかが見えてきます。
未来の自分が参考にするのは、過去の自分の営農記録です。将来の自分にプレゼントを渡す気持ちで記録をつけていきましょう。
