この記事は2026年5月時点の情報をもとに書いています。中東の状況は日々変わっているため、今後内容が変わることがあります。
「来シーズンの肥料、ちゃんと確保するために動いているか?」
正直、今この問いを気にしていない農家・肥料関係者は、かなりのんきだと心配しています。
肥料の話になると、どうしても「尿素がまた高くなった」「リン安が値上がりした」という肥料そのものの価格の話になりがち。でも今、静かに、そして確実に起きているのはそこじゃないんです。
「フレコンバッグや肥料袋が、物理的に手に入りにくくなりつつある」という問題。
「値段が上がる」ではありません。金を積んでも「そもそも入らなくなるかもしれない」という最悪の状況を考えて行動を促したいのが本記事の趣旨です。
1. 農業資材が足りない本当の理由|ホルムズ海峡とプラスチック原料不足
「中東の話は自分には関係ない」と思っていませんか?実はフレコンも肥料袋も、原料はすべて中東から来る石油でできています。なぜ遠い海峡の問題が農業資材の不足につながるのか、その流れをまず押さえて下さい。
ホルムズ海峡が「詰まった」だけで、なぜ農業資材が不足するのか
2026年2〜3月、中東のホルムズ海峡という海の通り道が、ほぼ使えなくなりました。
ホルムズ海峡とは、サウジアラビアやUAEといった産油国からタンカーが出てくるときに必ず通る場所。イランとの軍事衝突をきっかけに、その海峡を通る船が一気に減った。2026年5月時点でも、通過できる船の数は平常時の約10分の1以下が続いています。
日本は使う原油の約9割以上を中東から輸入しています。その大半がこの海峡を通るタンカーで運ばれてくる。つまり、「日本に入ってくる石油が激減した」状態。
石油が減ると、なぜプラスチックが作れなくなるのか
石油を精製すると「ナフサ」という成分が取れる。このナフサこそが、プラスチック製品を作るための大元の原料。
ナフサを加工することで「ポリエチレン(PE)」や「ポリプロピレン(PP)」という素材ができる。そして、
- ポリエチレン(PE)→ 肥料用ポリ袋(小袋・中袋)の原料
- ポリプロピレン(PP)→ フレコンバッグの織布(生地)の原料
になっている。石油が止まれば、ナフサが止まり、PE・PPが作れなくなり、最終的にフレコンも肥料袋も作れなくなる。単純だが、逃げ場のない構造になってい流のです。
今、国内の工場はどんな状況か
国内でプラスチック原料(エチレン)を作っている工場は全部で12か所あるようで、そのうち普通に動いているのはわずか3か所。残りは減産中か修理中の様子。
これを受けて、国内の主要なPE・PPメーカーが軒並み過去最大規模の値上げを発表しました。
| メーカー | 値上げ幅 | 時期 |
|---|---|---|
| 旭化成(PEメーカー) | +120円/kg以上 | 2026年4月〜 |
| 東ソー(PEメーカー) | +90円/kg以上 | 2026年4月〜 |
| 三井化学(PE・PPメーカー) | +90円/kg以上 | 2026年3月末〜 |
| 日本ポリプロ等(PPメーカー) | +90円/kg以上 | 2026年4月〜 |
注目してほしいのは、日本ポリエチレンという会社が値上げの告知よりも先に「供給に影響が出る可能性があります」という警告を出したこと。「値段が上がります」の前に「入らなくなるかもしれません」と言ったのです。これが今の状況の深刻さを端的に表しています。
2. フレコン・肥料袋が値上がり&不足する仕組み
「石油が減る」と「フレコンが手に入りにくくなる」の間には、いくつかのステップがあります。フレコンと肥料袋では事情も違う。それぞれの「弱点」を整理してみます。
フレコンバッグの原料は「PP(ポリプロピレン)」
フレコンバッグは、PPという素材で織られた丈夫な袋。私のリサーチでは、日本で使われるフレコンの多くは中国(山東省・江蘇省など)、ベトナム、インドで製造され、船で輸入されています。
中国はPPの生産量が世界最大で、石炭やロシアからのガスからもPPを作れる。そのため「日本の工場でナフサが不足する問題」の影響を直接は受けにくい。この点ではフレコンは比較的マシに見えます。
しかし、別の問題が積み重なっています:
- 中東〜日本のルートが使えないため、船は「アフリカ南端(喜望峰)経由」という遠回りをしている。これで輸送に2〜4週間余分にかかるようになった。
- 輸送保険料や「危険地域手数料」が上乗せされ、送料が大幅に増えている。
- 円安が続いており、輸入品はどんどん円建てで高くなる。
そして私が実務上で一番警戒しているのは「PPバンド問題」。
PPバンドとは、段ボールや荷物を束ねるあの細いプラスチックのバンドのこと。フレコンと同じPPから作られている。このPPバンドが2026年4月時点で、国内メーカー全社が「去年の注文量までしか売れません」という割り当て制に移行し、値上げ幅も15〜30%に達した。
フレコンとPPバンドは同じ原料のチェーン上にある。PPバンドが今この状態なら、フレコンも同じ方向に動くと考えるのが自然ではないでしょうか?
肥料用ポリ袋(小袋・中袋)はより深刻
主に10〜20kgの袋に入って売られる肥料のポリ袋(PE製の重袋)は、コメ袋(精米袋)と同じ原料から作られる。このコメ袋について、農林水産大臣が閣議後の記者会見で「安定的な供給が継続される見通しとなった」と正式に発言したのが2026年4月28日です。
「見通しが確認できた」とわざわざ大臣が言う、ということ自体が、普通ではない状況を意味しています。肥料用ポリ袋も同じ原料を使っており、同様のリスクにさらされている状況。
3. すでに現場で起きている農業資材高騰・欠品の実例
「まだ先の話では?」と思っているなら、この章を読んでください。青森の農業資材店、日本農業新聞、JA全農——現場からのリアルな声が出そろっていました。
資材店・農家・JAの声
青森・平川市の農業資材店の営業担当者は、2026年5月の取材にこう答えています
「値上げが毎日のように来るんですよ。1万アイテムぐらいあるんですけれど、ほとんどのものが値上げ値上げで」
「マルチが、発注しても思うように商品が入ってこない。(在庫は)去年の同じ時期と比べ3〜4割しかない」
マルチシートは2026年6月から4割値上がり、7月には7割値上がりが予想されているとのこと。
日本農業新聞はX(旧Twitter)の公式アカウントでこう発信しています:
「フレコンの供給にも不安が出てきました。不足すれば、30キロ紙袋での保管・流通をせざるを得ません。袋詰めにかかる労力の増加、輸送面への影響…」
フレコン1つで済んでいた作業が、30kgの紙袋を何十袋も扱う作業に戻る。農家の労力は一気に増える。これは単なるコストの話ではなくなってきます。
JA全農の公式発表
JA全農は農業用ナフサ由来資材全体について、仕入れ先から20〜40%以上の値上げ要請を受け、2026年4月から順次対応を開始している。新規受注を停止したり、4〜5月分から3割以上の値上げを要請したりする動きが広がっている」と公式に認めています。
帝国データバンクの2026年4月調査(1,686社対象)でも、包装材メーカーから:
「ポリエチレン等の調達難や価格上昇が大きく影響。原材料の入荷がないと製造が不可能となり稼働停止となる」
という声が収録されている。もはや「今後のリスク」ではなく「今、起きていること」なんです。
4. フレコンと肥料ポリ袋どちらが危ない?リスクの強弱を整理
フレコンと肥料袋では、リスクの中身が違います。「どちらをより急いで手配すべきか」を判断するために整理する。どちらも他人事ではないので注意。
フレコンバッグのリスク
| リスクの種類 | 見通し |
|---|---|
| 手に入らなくなるリスク | 中〜高:PPバンド等の周辺品での割り当て制開始が前兆として出ている。 |
| 価格が上がるリスク | 高:+20〜40%水準への上昇が現実的。2〜3年は高止まり見込み。 |
| 届くまでの時間 | 中〜高:中国からの船便で8〜12週間かかることを想定すべき(従来の約2倍)。 |
| 北海道農業への特別リスク | 「フレコンは北海道以外ではほとんど使われていない」(農水省等資料)。北海道のフレコン依存度は他県と段違いに高い。 |
肥料用ポリ袋(小袋・中袋)のリスク
| リスクの種類 | 見通し |
|---|---|
| 手に入らなくなるリスク | 高(深刻):国内の製造工場が12か所中3か所しか動いていない。 |
| 価格が上がるリスク | 高:+30〜40%以上の値上がりは避けられない。秋にも追加値上げ濃厚。 |
| 届くまでの時間・注文制限 | 高:大手メーカーで「去年注文した量までしか売れません」が広がっており、新規・増量注文は後回しにされる。 |
5. 2026〜2029年のフレコン・肥料袋の価格と供給の見通し
「いつ元に戻るか」は正直わからない。ただ、可能性の高いシナリオを知っておくことで、農業経営の計画精度は上げられます。3つのシナリオで整理してみました。
シナリオA|中東が1〜2年で落ち着く場合(確率:2〜3割程度)
2027年中に輸送コストが落ち着き始め、国内工場も徐々に回復。2026年内が最も厳しい時期で、2027年以降は改善方向へ。
ただし「元の値段に戻る」ことはない。一度上がった製造・輸送コストの一部は構造的に残る。
シナリオB|緊張が続くが、代替調達で徐々に調整される場合(確率:5割以上・最有力)
ホルムズ海峡の緊張が2027年も続く。中国・米国等からの代替調達が広がり、物理的な「入らない」状態はギリギリ回避される。
ただし「高い・遅い・いつ来るかわからない」が普通の状態として2028〜2029年まで続く。フレコン価格は今より+25〜40%が当たり前になる。ポリ袋は「去年の注文量しか取れません」という割り当て制が標準になる。
シナリオC|封鎖が長期化し「高コスト・高リスクが新常態」となる場合(確率:2〜3割)
2028年以降も構造的な解決なし。日本国内のプラスチック製造業が縮小・集約され、特定の袋サイズ・仕様が慢性的に不足する。フレコン価格は今の1.5〜2倍水準になる可能性もある。
この場合、「バラ(袋なし)で受け取る」設備への投資が、農家にとって現実的な経営判断になってくる。
6. 農家と肥料業者が今すぐできるフレコン・資材対策
これらの情報を知るだけでは意味がありません。肥料販売会社・営業担当者と、農家それぞれが「今週から動けること」に絞って書いていきます。
肥料販売業者がやること
① 来シーズン分のフレコン・袋を今すぐ発注する(これが最優先)
現状の「去年の注文量しか売れません」という割り当て制のもとでは、今まで取引がある顧客の分は確保できるが、新しく増やしたい分は後回しにされるリスクが非常に高い。
「価格が落ち着いてから発注しよう」という判断は、この局面では逆効果。待てば待つほど、優先される枠を失う。2026年秋〜2027年春シーズン分を、今から動いて確保してほしい。
② 仕入れ先を1社に絞らない
フレコンについては、国内商社ルートだけでなく、中国・ベトナムからの直接輸入ルートも選択肢に入れておく。仕入れ先の候補を探す際は以下を確認:
- PPの原料はどこから調達しているか(中国国内調達なら比較的安定)
- 最小注文数はいくつか
- 現状のリードタイム(実際に届くまでの日数)はどれくらいか
ポリ袋については、大手メーカーへの注文枠をしっかり維持しつつ、万が一に備えてPP製の袋やクラフト紙との複合袋など、代替品の仕様も事前に調べておく。
③ 長期契約・価格の取り決めを交渉する
「随時値上げ」が当たり前になった今、年間の数量を決めて先に約束する年間数量契約は、双方にメリットがある。値段については「原料の価格が動いたら、それに応じて調整する」という仕組みを盛り込んでおくと、急な値上げショックを和らげられる。
④ 農家への早期発注の案内を徹底する
「来シーズンの肥料は早めにお願いします」という話に、「フレコン・袋の確保のためにも、必要数を早めに教えてください」という一言を必ず添える。これは農家への重要な情報提供であり、自分たちの調達計画を立てるためにも不可欠。
大規模農家(50ha以上)がやること
① 2026年秋〜2027年春の資材を今から確保する
肥料の早期発注と同じ感覚で、フレコン・肥料袋も「先買い・先確保」が常識になったと考えるべきです。
やること:
- 今使っているフレコンのサイズ・仕様・年間枚数を確認する
- 肥料の仕入れ先や農業資材店に「来シーズン分の数量を今から押さえたい」と伝える
- 「価格が上がりそうだから少し多めに確保しておく」という判断は、今の局面では正しい
② フレコンの仕様を揃える
出荷する作物や圃場によって、微妙にサイズや形状が違うフレコンを使っている場合は、できるだけ同じ仕様に統一することを検討する。
統一すると:
- まとめて注文できるので、優先的に確保しやすくなる
- 施肥機との相性も良くなり、作業ミスが減る
- 余ったフレコンを他の用途に転用しやすくなる
③ フレコンを「使い捨て」から「返却・再利用」に変える
フレコンを使った後、業者に返却して洗浄・再使用するサイクルを組む農家もいるようです。年間使用枚数を減らせる分、調達リスクを下げられる。混入リスクがないかを確認した上で、仕入れ先に「回収・再利用できるか」と相談してみる価値はあるのではないでしょうか?そんな局面に入ってきています。
7. フレコン不足に備える「バラ受入れ」という根本対策
フレコン・袋の問題を根本から解消したいなら、この選択肢がある。初期投資は必要だが、50ha以上の農家には真剣に試算してほしい。
バラ受入れとは
肥料をフレコンや袋に詰めず、タンクローリーやダンプカーで農家のサイロ(貯蔵設備)まで直接運び込む方法。袋を開ける手間も、フレコンを確保する手間も、最初からなくなる。
メリット
- フレコン・袋の費用がそもそも不要になる(肥料本体が安くなるケースも多い)
- 散布機に直接投入でき、袋の開封・移動などの手間がなくなる
- 今後どれだけ包装資材が高騰・不足しても、影響を受けなくなる
デメリット・注意点
- 最初にサイロや散布機の設備を買う必要がある(初期投資)
- 粒状・粉状の固体肥料に限られる
- 複数の肥料を混ぜながら使う場合、配合器・保管・管理の工夫が必要
経済的に見合うのか
目安として、水稲・小麦・馬鈴薯などで50ha以上の規模があれば、設備投資の回収は5〜7年程度で見込めるケースが多いと言われます。しかも今の局面のように包装資材が20〜40%値上がりしている状況では、この回収期間はさらに短くなる可能性が高いです。
私の現場感覚では、北海道の大規模農家と言っても基本的にはバラ受入れは実施していません。だからこそ、今がマジメに試算するタイミングかもしれないと思っています。JAや農業機械メーカーに「バルク受入れの見積もりを出してほしい」と相談してみる価値はありそうです。
地域の農家が複数で設備コストを分担する「共同バルク設備」という選択肢も、JAを通じて検討に値します。
8. まとめ|フレコン・肥料袋の在庫争奪戦に負けないために
最後に全体を整理して、「今日から動くこと」を改めて確認する。
肥料が高いという話は今に始まったことではありません。しかし今回は、それとは次元が違ってきました。
「値上がりするが手には入る」から、「値上がりして、かつ手に入らない可能性がある」への変化が起きつつあるんです。
整理すると:
- 中東のホルムズ海峡が「詰まった」ことで、日本に入ってくる石油が激減した。
- 石油が減ると、フレコン(PP製)・肥料袋(PE製)の原料も不足する。
- JA全農・農水省・農水大臣が「農業用資材の供給」を正式な問題として認識し始めた。
- 大手の包装資材メーカーでは「去年の注文量までしか売れません(割り当て制)」が広がっている。
- 今後3年の最有力シナリオは「高い・遅い・不安定が2028年頃まで続く」状態。
今すぐやることはシンプル:
- 来シーズン(2026年秋〜2027年春)分の肥料・フレコンを今すぐ前倒しで確保する
- 仕入れ先を1社に頼らず、緊急時の代替先も探しておく
- バラ受入れ設備の試算をしてみる
- 業者は農家へ「資材も早めに手配してください」という情報共有を今すぐ始める
農業経営の話をするとき、「肥料が高い」という問題と「肥料が入ってこない」という問題は、重さが全然違う。前者はコストの問題だ。後者は作付け計画そのものが狂う「営農に直結する問題」です。
今の状況は後者に近づいています。この認識を持って動いている農家と持っていない農家では、2〜3年後に大きな差がつく可能性が高いと考えています。
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