この記事で解決できるお悩み
・亜リン酸入り化成400のリン酸10%は少なすぎないか不安
・従来の14-14-10や14-18-14と何を比べればよいか分からない
・試験データを見ても、自分の水田で使えるか判断できない
・リン酸を減らして、収量や品質を落とさないか心配
山型の高リン酸銘柄を使っていた生産者にとってリン酸10%の水稲肥料と聞くと、「従来より少なすぎないか」と不安になりますよね。長年、リン酸は多めに入れておくのが安心とされてきました。袋の成分表で真ん中の数字が下がれば、収量に響くのではと身構えてしまうのも当然です。
あさひ土壌医として北海道の圃場を見てきた立場から、試験データの正確な読み解き方と現場での判断基準を分かりやすく解説します!
亜リン酸入り化成400は、亜リン酸を配合し、リン酸が蓄積した圃場での施肥設計見直しを狙う水稲用肥料です。添付された試験成績では、対照肥料よりリン酸を4〜5kg/10a少なくしても、生育・収量・品質は概ね同等でした。
ただし、この結果だけで、すべての水田でリン酸を減らせるとは言えません。試験は2024〜2025年の2年間、2地点で実施されたものです。土壌条件、品種、移植時期、水管理、前年の有機物施用量が変われば、同じ結果になるとは限りません。
この記事では、亜リン酸入り化成400の成分と開発の狙い、試験データの読み方、導入前に確認したい土壌条件を整理します。読み終えるころには、「新しい肥料だから試す」「リン酸10%だから避ける」という二択ではなく、自分の水田で試す価値があるかを判断できるようになります。
亜リン酸入り化成400とは?14-10-10の水稲用肥料



リン酸10%って、いつもの肥料より少ないが、何が違うんですか?
亜リン酸入り化成400の保証成分は、窒素14%、リン酸10%、カリ10%、苦土(MgO)1%です。窒素は全量アンモニア態で、リン酸成分には亜リン酸が配合されています。製品情報では、水稲用肥料であり、リン酸が蓄積した圃場に適すると案内されています。
比較対象としてよく挙がるのは、14-14-10や14-18-14といった水稲用の慣行銘柄です。ただし、実際に使われている銘柄や施用量は地域、土壌、品種、施肥体系によって違います。14-18-14を使う地域もあれば、14-14-10を基本にする地域もあります。
したがって「18%から10%へ大幅減だから危険」とも、「亜リン酸入りだから問題ない」とも、この段階では言えません。最初に確認するのは、普段使っている肥料の成分と10a当たりの施用量です。そこが分からなければ、亜リン酸入り化成400が自分の施肥設計でリン酸を何kg減らすのかも計算できません。
リン酸が蓄積した圃場を想定した設計
この肥料を「リン酸が少ない肥料」とだけ見ると、本質を外します。製品が想定しているのは、土壌にすでにリン酸が蓄積している圃場です。土壌にあるリン酸を活かしながら、肥料から追加するリン酸を抑える設計だと捉えると、位置づけが分かりやすくなります。
水田では、過去の施肥や堆肥施用の積み重ねで、土壌診断のリン酸値が高い圃場があります。このような圃場では、土壌中に作物が利用できるリン酸が残っているため、毎年同じ量を肥料から加える必要がない場合があります。一方、診断値が低い圃場では、土壌に頼れるリン酸の貯金が少ない可能性があります。
亜リン酸入り化成400は、土壌診断を省略できる肥料ではありません。むしろ、土壌のリン酸値を確認して初めて、導入の価値を判断できる肥料です。


亜リン酸の特徴と、誤解してはいけない点
開発元は、亜リン酸について「正リン酸と比べ作物の体内移行が早く、土壌に吸着しにくい」という特長を示し、寒冷地での初期分げつ不足対策へ役立てる狙いを説明しています。亜リン酸液肥を知っている人にとっては、その特性を基肥に応用したと考えると理解しやすいでしょう。
ただし、「体内移行が早い」ことと「正リン酸の必要量を必ず減らせる」ことは同じではありません。移行性は初期生育へ関わる可能性がある一方、作物が生育期間を通じて必要とするリン酸の総量は、土壌中の可給態リン酸、根の張り方、気温、水管理など複数の要因で決まります。
土壌医として見ると、亜リン酸入りという一点だけを理由に、正リン酸を減らす判断はしません。土壌のリン酸値が高いこと、試験条件で結果が確認されていること、比較できる慣行区を残せること。この3条件がそろって初めて、減肥を検討する材料になります。
リン酸10%で試験された理由|成分%ではなく投入量(kg)で比べる



14-18-14と比べるなら、リン酸の%を見るだけでは足りないんですね?



その通りです。肥料袋に書かれた%は成分濃度であり、圃場へ実際に入る成分量ではありません。
肥料を比較するときは、保証成分%と製品施用量をかけ合わせ、10a当たりに何kgの窒素・リン酸・カリを入れるのかで見ます。
10a当たり成分投入量(kg)
= 製品施用量(kg/10a)× 保証成分(%)÷ 100
例えば14-18-14を10a当たり50kg施すなら、リン酸投入量は9kgです。計算は「50kg×18%=9kg」となります。14-10-10を同じ50kg施すなら、リン酸投入量は5kgです。この差を見て初めて、肥料から入るリン酸が4kg/10a違うと分かります。
これは、牛乳のパックに書かれた乳脂肪分だけを見て、1日に摂る脂肪の量を決めるようなものです。濃度だけでなく、どれだけ飲むかまで見なければ、実際に摂る量は分かりません。肥料も同じで、成分%と施用量は必ずセットで読みます。
試験区はリン酸を4〜5kg/10a少なくした設計
農業試験場にて実施された試験の成績概要書では、亜リン酸入り化成400を用いた試験区と対照区で、窒素量をそろえたうえでリン酸・カリ量を変えて比較しています。試験区は、対照区に比べてリン酸を概ね4〜5kg/10a少なくした施肥設計です。
| 試験地 | 区分 | 窒素 | リン酸 | カリ | 苦土 |
|---|---|---|---|---|---|
| 上川農試 | 試験区 | 9.0kg/10a | 6.4kg/10a | 6.4kg/10a | 0.6kg/10a |
| 上川農試 | 対照区 | 9.0kg/10a | 11.6kg/10a | 9.0kg/10a | 0.5kg/10a |
| 中央農試 | 試験区 | 8.0kg/10a | 5.7kg/10a | 5.7kg/10a | 0.5kg/10a |
| 中央農試 | 対照区 | 8.0kg/10a | 10.3kg/10a | 8.0kg/10a | 0.5kg/10a |
表のポイントは、窒素を同量にしていることです。窒素の違いで生育差が出る条件ではなく、リン酸・カリの施肥量を抑えた条件で、どこまで生育や収量を維持できるかを見ています。上川農試ではリン酸を5.2kg/10a、中央農試では4.6kg/10a抑えた計算です。
この試験の核心は、亜リン酸で増収したかではなく、リン酸を減らした設計で対照区と同等だったかです。
教科書と現場で見るべき点は違う
📖 教科書では
リン酸成分が多い肥料ほど、施肥由来のリン酸供給量は増えます。もし、土壌中のリン酸が不足しているなら、少ない成分の肥料へ替えることは慎重に考えるべきです。
🌾 現場では
土壌にリン酸が残っていれば、毎年同じ量を肥料から足さなくても、作物が使えるリン酸の総量を保てる場合があります。肥料袋の「10%」だけではなく、土壌診断の可給態リン酸と並べて見る必要があります。
ここで「土壌にリン酸があるなら、肥料は不要」と飛躍しないことも大切です。土壌中のリン酸が高くても、初期生育、根域、低温、施肥位置によっては、肥料由来のリン酸が意味を持つ場面があります。だからこそ、減肥の可否は土壌診断値だけでなく、施肥体系と作物の生育を重ねて考えます。


水稲試験データを検証|リン酸減肥でも同等だった



試験データがあるなら、どの水田でも切り替えてよいのでしょうか?
試験は2024年と2025年の2作、上川農業試験場の褐色低地土と、中央農業試験場のグライ低地土で実施されました。移植栽培で、供試品種はななつぼしです。試験地が2地点、年次が2年あることは、単年・単一圃場の試験より判断材料を増やしています。
一方で、北海道のすべての土壌型、すべての品種、すべての栽培方法を代表するものではありません。特に、土壌リン酸が低い水田、直播栽培、極端な低温や高温の年に同じ結果になるかは、この資料だけでは判断できません。
試験データは「どの水田でも導入してよい証明」ではありません。土壌条件が近い圃場で、慣行区を残した比較試験を始める根拠として使うのが安全です。
生育・収量・品質は対照区と概ね同等
成績概要書では、草丈、茎数、稈長、穂長、出穂期などの生育指標に大きな差は見られませんでした。精玄米重、整粒歩合、白米タンパク含有率などの収量・品質項目も、試験区と対照区で概ね同水準です。さらに、窒素・リン酸・カリの吸収量も対照区と同等と整理されています。
| 比較項目 | 試験結果の読み方 |
|---|---|
| 生育 | 草丈・茎数・稈長・穂長などは対照区と概ね同等 |
| 出穂・成熟 | 出穂期・成熟期に大きな差は見られない |
| 収量 | 精玄米重は対照区と概ね同水準 |
| 品質 | 整粒歩合・白米タンパク含有率などは概ね同等 |
| 養分吸収 | 窒素・リン酸・カリ吸収量は対照区と概ね同等 |
| 施肥リン酸 | 試験区は対照区より4〜5kg/10a少ない |
この結果は、試験圃場では土壌側に利用できるリン酸があり、施肥からのリン酸を抑えても生育が維持できた可能性を示しています。ただし、資料だけから「亜リン酸の作用だけで同等になった」と因果関係を切り分けることはできません。肥料全体の設計、土壌条件、年次の気象を含めた試験結果として受け取る必要があります。
また、数値に小さな差があっても、統計的な有意差がない場合があります。収量だけを見て数十kgの上下に反応するのではなく、同じ条件で比較したか、差が継続して出ているか、品質に影響がないかまで確認する姿勢が必要です。
この試験から言えること、言えないこと
この試験から言えること
- 2年・2地点の試験条件では、リン酸を4〜5kg/10a減らしても、対照区と概ね同等の生育・収量・品質を確保できた
- 土壌診断でリン酸が蓄積している水田では、低リン酸設計を比較する材料になる
- リン酸とカリの施肥量を、土壌条件に合わせて見直す方向性を示している
この試験だけでは言えないこと
- 亜リン酸入りなら、すべての水田で増収する
- 土壌診断なしで、慣行肥料を一律に置き換えられる
- 可給態リン酸が低い水田でも、正リン酸を減らしてよい
- 他の土壌型、品種、直播栽培でも同じ結果になると保証されている
メリットだけを見ると、新銘柄は魅力的に見えます。しかし、土壌中のリン酸が低い圃場で施肥由来のリン酸まで減らせば、初期生育や収量が不安定になる可能性があります。低リン酸設計が向くかどうかは、肥料の新しさではなく、土壌診断値で決まります。
亜リン酸入り化成400を選ぶ前に、土壌診断を確認する



では、どんな水田なら検討してよくて、どんな水田は見送るべきですか?
試す候補になる水田
- 直近の土壌診断で、可給態リン酸が基準値を超えている
- 堆肥など有機物施用により、リン酸の蓄積が見込まれる
- 慣行肥料のリン酸コストを見直したい
- 初年度に慣行肥料の区を残し、比較できる
- 収量だけでなく、初期生育・穂数・品質・肥料費も記録できる
ここでいう「試す」は、全面導入ではありません。土壌診断でリン酸が高いことを確認でき、同じ圃場の中に慣行区を残せる場合に、比較試験の候補になるという意味です。高い診断値を確認せずに、新肥料だからと採用するのは順番が逆です。
すぐに切り替えない水田
- 土壌診断をしていない、または診断年が古い
- 可給態リン酸が基準値付近、または低い
- リン酸不足と、低温・わら分解・根張り不良などの要因を切り分けられていない
- 全面積を一度に切り替えるしかなく、慣行区を残せない
- 前年までの施肥量や有機物施用履歴が整理できていない
可給態リン酸が低い場合は、今回の試験結果をそのまま当てはめないでください。土壌中のリン酸を活かす前提が崩れるためです。診断値が分からない場合も同じです。肥料を変える前に、土壌診断の採土年、採土位置、分析方法を確認することが先になります。
筆者なら、全面導入ではなく1筆比較から始める
土壌医として見ると、リン酸値が高い水田であっても、最初から全面積を切り替える判断は急ぎません。理由は、品種、移植時期、水管理、前歴の影響と、肥料そのものの影響を分けて確認できなくなるからです。
筆者なら、まず条件が整った1筆で亜リン酸入り化成400の区と慣行肥料の区を並べます。比較区は、できるだけ同じ土壌条件、同じ品種、同じ移植日、同じ水管理にそろえます。そして初期生育、穂数、最終的な収量、品質、肥料費の差を記録して、次年度に面積を広げるかを決めます。
例えば6月中旬、移植後20日ほどが経ち、周囲の水田で茎数が増えて葉色が濃くなり始める時期を想像してください。この時点で、慣行区と試験区の分げつの進み方、葉色、欠株周りの生育を同じ目線で見比べます。秋まで待たずに、途中経過を記録しておくと、収量結果だけでは分からない判断材料が残ります。
試験区の面積は、収穫時に別々に計量できる広さを確保します。境界が曖昧だと、コンバイン収穫時に混ざり、収量比較ができません。収穫前に区の位置を地図や圃場台帳へ残し、肥料銘柄、施用日、施用量も記録しておくと、翌年の判断に使えます。


コストは「袋単価」ではなく成分と収量で比べる
低リン酸設計の肥料を選ぶ際、袋の価格だけで得か損かを決めるのも危険です。比較したいのは、①10a当たりの肥料費、②投入する窒素・リン酸・カリ量、③収量と品質、④翌年以降の土壌診断値です。
例えば肥料費が少し下がっても、リン酸が低い圃場で収量を落とせば、経営全体では得になりません。反対に、土壌リン酸が高い圃場で同等の収量と品質を維持できるなら、成分を余分に入れないことは肥料費だけでなく、将来の過剰蓄積を抑える意味も持ちます。
比較表を作るなら、製品の袋単価、10a当たりの製品使用量、10a当たりの肥料費、リン酸投入量、収量、白米タンパク、整粒歩合を横に並べます。ここまで並べれば、「新肥料が良いか」ではなく、「この圃場で慣行と比べて経営上の意味があったか」で判断できます。
新銘柄の評価は「効いたか」だけで終わらせず、「慣行と同じ収量・品質を、どの成分量とコストで維持できたか」まで比較して初めて経営判断になります。
まとめ:今日やることは土壌診断書を開くこと
- 亜リン酸入り化成400は、窒素14%、リン酸10%、カリ10%、苦土1%の水稲用肥料
- 試験では、対照区よりリン酸を4〜5kg/10a減らしても、生育・収量・品質は概ね同等だった
- ただし、これは亜リン酸で増収するという結果ではなく、限定された試験条件で減肥下の同等性を確認した結果
- 導入判断は、土壌診断の可給態リン酸、施肥履歴、比較区を残せるかで決める
- 初年度は全面導入せず、慣行区を残した1筆比較から始める
今回の記事で最優先にしたいのは、「この水稲用新銘柄を、自分の水田で試すべきか」という実務判断です。亜リン酸そのものの化学的な性質や、正リン酸との根本的な違いについては、別記事で詳しく整理する予定です。
今日やることは1つです。
直近の土壌診断書を開き、可給態リン酸の欄に丸を付けてください。その数値を確認しない限り、リン酸10%という設計が、あなたの水田にとって「減らせる設計」なのか、「足りなくなる設計」なのかは判断できません。
